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セクト・ポクリットの【コンゲツノハイク】の好きな句<2021年4月>


里芋のぬめりのように母と娘は  根本奈穂子(「海原」)

近頃、「共依存」や「毒親」といったワードをよく目にするようになりました。「里芋のぬめり」とはよく言ったもの。一見たいしたことないと思って油断していると、まな板や包丁にこびりついて、水洗いしてもすっきり取れないものです。

仕事始まだ温まらぬビルの芯  多田悦子(「銀漢」)

「ビルの芯」という見立てが見事です。ビルも、そこに働くたくさんの人々も、なかなか温まらない仕事始め。みんなそんなものだよなぁと思ってちょっとうれしくなりました。

マネキンの顔の省略うすら寒  岡野晃子(「櫟」)

「顔の省略」とは、なんと俳諧味があって的確な表現!マネキンの顔ののつぺらぼう○○、といった句を最近作っていたので、自分はまだまだ推敲が足りなかったなぁと思いました。顔のないマネキンはたしかにうすら寒いです。

炬燵ごと這ひてリモコン取らむとす  戸田典々(「澤」)

炬燵から出たくなくて、炬燵を背負ったまま部屋中を移動する、炬燵一体化人間(!)を想像しました。一人暮らしの狭いワンルームが見えるようです。「リモコン」という小道具の選択も見事。漫画にしたい一句です。

眩しさに目玉引つ込む深雪晴  椎名果歩(「鷹」)

深雪晴の眩しさは強烈です。それにしても「目玉引つ込む」の措辞にびっくりします。そして力強い。ありふれた言葉を使って、いままでのない表現をする。これこそ自分が俳句で目指したいゴールだなぁと思いました。

買初や本屋帽子屋古本屋  有田曳白(「鷹」)

「買初」の句ってなかなかうまく作れなかったのですが、掲句のように素直に楽しく作っていいのだ、と目が覚める思いがしました。本屋→帽子屋→古本屋と、ふたたび本に戻ってくるのが愛おしいです。

ヒトラーユーゲント水仙群れ立ちて  山本こうし(「南風」)

句会でお見かけしたことがあり、家の近くの道で水仙を見かけるたびに思い浮かぶ愛唱句になりました。「ヒトラーユーゲント」は「ナチス青少年団」とも訳される組織のこと。人種差別を含めたナチスのイデオロギーを教え込まれた青年たちと、まっすぐに立つ有毒植物の水仙の群れが響き合います。

風呂敷の紫匂ふ賀客かな  師岡洋子(「鳰の子」)

お正月にやってくる親戚の方などがときどき独特な香りを発していることがあります。風呂敷が匂うというケースもあります。そこからさらに表現を突き詰めて、「風呂敷の紫匂ふ」としたところが見事。紫色っぽい香りってある気がします。

われ出でて右往左往の柚子湯の柚  松尾隆信(「松の花」)

お風呂から上がるときの水面の乱れで、大揺れになる柚子の様子がありありと想像できます。「われ出でて」の簡潔な表現、「右往左往」の俳諧味、勉強になります。

日向ぼこ敵に囲まれたるやうに  西澤みず季(「街」)

わずかな日だまりにぴったりと収まるように体勢を固定して日向ぼこをしている様子を思い浮かべました。「敵に囲まれたるやうに」というドキっとする比喩と、ほのぼのとした季語とのギャップが面白いです。一度手にした幸せ(日だまり)を少しでも逃したくない気持ち、よくわかります。


↓ こちらのサイトより、10句好きな句を紹介させていただきました。


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