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セクトポクリット『コンゲツノハイク』(8月分)の好きな句

花は葉に海賊版の地に売られ  齋藤朝比古(「炎環」)

海賊版におちる葉桜からの木漏れ日が見えてきます。「地に売られ」の把握がうまいです。

チューリップ己が重さに気づき初む  藤田素子(「火星」)

気づいたときからグデンとなるのですね。かわいい内容と硬い言い方のギャップがいいです。

春愁や働く影を壁に留め  櫛部天思(「櫟」)

「働く影」とまで簡略化した言い方はなかなかできないと思いました。

菜種梅雨検査容器に唾の泡  山下希記(「澤」)

新型コロナの抗体検査。あれをこんなふうに一句にできるとは脱帽です。

花過ぎのひんやり垂るる犬の耳  篠崎央子(「磁石」)

花冷の風情。ひんやり垂るる、とはできそうでできない表現です。

転職か我慢か棒立ちのシャワー  柏倉健介(「鷹」)

「我慢」という言葉のインパクトがすごいです。ホントのことだったら嫌だなぁ。

便箋に砂漠の匂ひ五月来る  フォーサー涼夏(「田」)

「砂漠の匂ひ」ってどんなものでしょう。しかも「五月来る」の季語の斡旋。不思議な魅力のある句です。

夏蝶や岩に張り付くクライマー  藤原基子(「天窮」)

クライマーと夏蝶と。一枚の絵のような描き方がうまいです。

そら豆をむく楽しさよ全部むく  上田和子(「南風」)

下五「全部むく」の楽しさが好きです。

金管の束なす音色新樹光  日野久子(「南風」)

金管の音色を「束なす」と表現した見事さ。たしかにあれは「束」です。

賀茂祭川に掬ひしもの返す  黒岩徳将(「街」)

「川に掬ひしもの返す」のシンプルな表現だからこそ広がる奥行きがあります。






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