セクト・ポクリット【コンゲツノハイク】(2022年3月)より好きな句
花ミモザ圧倒的に勝つテニス 岡田由季(「炎環」)
「圧倒的に勝つ」のあっけらかんとした表現がよいです。ミモザとテニスの取り合わせのさわやかさも◎
出張の一期一会のおでん酒 小山さち子(「円虹」)
出張の一番の楽しみはその土地のおいしいものを食べておいしいお酒を飲むこと。古き良き時代の仕事感が羨ましいです。
四S四T各一人づつ読始 亀丸公俊(「銀化」)
俳句というすごく日本的なものなのに、四S、四Tとイニシャルを使うところ、冷静になると面白いです。わたしだったら、阿波野青畝と星野立子だなと想像するのも楽しいです。
抜きし本戻せぬ書棚漱石忌 白井飛露(「銀漢」)
ぎちぎちに詰まってる本棚はどこか不健康。出し入れのときにいつもイライラするものです。漱石忌との取り合わせの妙。
深海に噴く熱水や去年今年 小澤實(「澤」)
地球規模で捉えた去年今年の時間の流れ。中七の「や」の切れ字がよく効いていると思いました。こんなスケールの大きな句に憧れます。
聖夜劇その他大勢みな天使 栗山節子(「澤」)
その他大勢だけれど、ひとりひとり全員天使。映像としてもかわいいですし、こどもへのとても優しいまなざしを感じます。
毛皮着て顔の細さのあらはるる 草子洗(「田」)
相対的に小顔に見えることを狙ってボリュームのある毛皮を着たのかと思いました。しかし本人の狙いとはうらはらに「細さ」があらわれたと感じた俳人の感性のにしびれます。
月代や波引く力遠くより 中島晴生(「都市」)
月の出を待って海に向かっているのでしょうか。じつに雄大な景です。「遠くより」とざっくり捉えたところがよいです。
ビラ配るサンタの服に畳み皺 帯谷麗加(「南風」)
安っぽいビラを配る安っぽいサンタ。バイトの青年(もしくは少女)の華奢な体つきまで見えてくるようです。「畳み皺」だけに注目したみせたところが見事。
誰彼と逢へる日を恋ひ秋めきぬ 稲畑汀子(「ホトトギス」)
先月末91歳でお亡くなりになった稲畑汀子さん。ホトトギス誌上の稲畑汀子さんの句をこうして読めるのも『コンゲツノハイク』の良いところですね。コロナ禍をさらりと詠まれている自然体の一句をしみじみと味わいたいです。
黄落期子に従ふを悦びに 松本欣子(「百鳥」)
年をとりいろんなことができなくなって子どもにやってもらうことが増えてきたのでしょうか。それを前向きに言い換えたことがすごいと思いました。黄葉がふりしきる美しい景色が作者のこころもちに寄り添っているかのようです。
略歴に省く十年冬の雁 髙勢祥子(「街」)
省かれたのは働いていなかった十年か、それとも俳句から離れていた十年でしょうか。こういうことあるあると思うと同時に、読者それぞれに想像が広がります。春になると北へ帰る雁に思いを重ねているのでしょうか。
岡田由季さんの句の評がこちらの記事に掲載されています。ファンレターのような文章になってしまった‥‥!