セクト・ポクリット「コンゲツノハイク」【2022年9月】 12句選
地球儀の傾きほどの籐寝椅子 水上ゆめ(「秋草」)
比喩がうまいです。籐寝椅子に寝転びながら遠い異国へ思いを馳せているような雰囲気を感じました。
晴天やゼリーにしたき五月の風 髙橋満利子(「閏」)
「五月の風」味のゼリーという大胆な発想に憧れます。あと上五が格好いいです。
怖ろしく尖る香水瓶の蓋 山尾玉藻(「火星」)
安全性を無視しているところがいかにも香水瓶の様子。魔女っぽい句です。
君の句のなくて七月号とどく 榊原栄作(「銀化」)
個人的な内容でも結社誌に投句してもいいんだよなと思い、まさに目から鱗でした。誰か一人にむけて書いた句ですね。
口々に母似と言はれ絽の喪服 三溝恵子(「銀漢」)
喪服なので、久しぶりに会った親戚、知り合いの方々から言われたのでしょう。短い言葉で状況を端的に表しているうまい句。
葉桜や陶土投げつけ叩きつけ 江崎紀和子(「櫟」)
投げつけているだけでなく、さらに叩きつけているところがユーモラス。明るい季語の斡旋がよいです。
蜜柑咲く太平洋の照り翳り 矢野弓子(「鷹俳句会」)
下五が移り変わりの早い海の天気を表していて見事。おおらかな季語も気持ちが良いです。
バサと変はるデジタル時計走り梅雨 若林朝子(「橘」)
通称パタパタ時計と呼ばれているデジタル時計。あれが句になるのかという驚きがありました。
ソーダ水ひと口残し羽田発つ 古曵伯雲(「鳰の子」)
ちょっと残しのソーダ水は主体の心残りを表している、とかではなく、そういう癖なのかなと思いました。成田と比べたときの羽田の軽み。
足の砂足で落とせり大西日 安倍真理子(「ふよう」)
たしかに足の砂は手を使わずに足で落とすなと思いました。さりげないスケッチが素敵です。
向日葵や大縄跳びを出られぬ子 今井聖(「街」)
大縄跳びに入る場面でなく、出る場面に注目したところがさすがです。明るい季語によって、ほほえましい気持ちになります。
すててこや電池の尻が錆びてゐる 鈴木牛後(「雪華」)
「電池の尻」とは電池のマイナスのことでしょうか。昔はよくあった電池の錆もすっかり見なくなりました。これはユニクロのエアリズムのステテコではなく、年配男性のすててこですね。