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角川『俳句』2023年9月号の好きな句

薔薇に浮く薔薇見にきたる人の顔 小川軽舟
薔薇の混み合って咲く様子を「薔薇に浮く薔薇」とリフレインで表現したのが巧み。

路地深く臓物売れり扇風機 小川軽舟
大阪の下町を詠んだ一句。路地の奥を「深く」と表現したのがいいし、季語「扇風機」にそこに生きる人たちの生活を感じる。

よろよろと風まよひこむ路地暑し 小川軽舟 
こちらも大阪句。風の擬人化に、暑さに翻弄される人々が重なる。

家で洗ふ個人タクシー秋暑し 小川軽舟
「家で洗ふ」のざっくりとした描写が笑える。

澄みに澄み放出を待つ汚染水 小川軽舟
福島第一原発の処理水海洋放出。「澄みに澄み」が怖い描写。

月出でぬ山の胸座(むなぐら)押し分けて 小川軽舟
50句連作「胸座」のタイトル句。小川軽舟さんの50句は、句集を読んだくらいの満足感が得られる。

夏潮や水を怖るる病後の身 本井英
海水浴の描写として新鮮だった。本井英さんの作品16句「Z海岸」は〈青く塗り桃色に塗り海の家〉〈水着着て四頭身や可愛らし〉など惹かれる句が多かった。

一匹の蛇のかたまり水へ落つ 千葉皓史
とぐろを巻いた蛇を「かたまり」と捉えた目が冷静だ。

盆の家夫を知らざる子の増えて 西宮舞
亡くなってからずいぶんと経つので、夫(おじいちゃん)のことを知らない孫世代が増えてきたのかなと想像した。短い中にドラマがある。

寝ようかと思うてすごす夜長かな 若杉朋哉
はやく寝たほうがいいことはわかっているが、本も読みたいし、俳句も作りたい。共感しかない。若杉朋哉さんの句は、いつも淡々として涼しげで惹かれる。

雁や研究室のすぐ曇る 犬星星人
大学の研究室を思った。実験をしているのか、単に湿気がこもりやすいのか。「すぐ」がユーモラスでほっこりする。目線を遠くに誘導する季語「雁」が巧み。

銀河より水のこぼれてきて雨に 犬星星人
スケールの大きな秀句。ありそうでない発想だと思った。


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