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蒼海3号すきな句

蒼海3号は2019年3月発行です。おもに秋から冬の句が掲載されています。

あの枯野見し眼より我が枯れすすむ  堀本裕樹

ホラー味の強い一句。しかし突き抜けたネガティブは俳句にするとものすごくかっこよくなるのですね。「あの」が強烈なイメージを読者に想起させます。

愛の羽根箱いつぱいの軽さかな  さとう独楽

「愛の羽根箱いつぱいの」まで読み、ハートウォーミングな句なのかと思って油断すると下五「軽さかな」で一気に裏切られます。愛の羽根は箱いっぱいでも所詮軽いという一種のアイロニーを感じます。「赤い羽根」でなく「愛の羽根」と言っているところも効いています。これは歳時記に載せてほしい一句。

出し抜けに名刺交換秋祭  佐復桂

仕事とは離れた「秋祭」でふと仕事モードになるところに俳諧味があります。「夏祭」よりもやや落ち着いた雰囲気の「秋祭」が名刺交換にはよく似合います。「出し抜け」という勢いのある言葉がよく効いています。

保線夫に星の傾く夜食かな  沢いづみ

保線夫は線路のメンテナンスをする人のこと。電車の走らない夜中に作業することが多いようです。保線夫と夜食との取り合わせから一歩踏み込んで「星の傾く」と描写したことで、まるで一句が絵本の一ページのように立ち上がってきます。

酔ひ伏して赤い羽根ごとねぢれたる 福嶋すず菜

酔っ払って卓に伏せているとはなかなかの醜態です。その胸には赤い羽根がねじれている。その日の朝に募金したのでしょうか。赤い羽根に募金をする人間が酔いつぶれている。人間描写の巧みさ、しかもそれをモノに託して詠んでいるところがしびれます。こちらもぜひ歳時記に載せてほしい一句。

敬老日かつて引かれし手を引いて  中村たまみ

親の老いをテーマにした一句。ぐっときました。手に焦点を絞っているところと、引かれし、引いてのリフレインが巧みです。

露けしや男は河岸を変へたがる  三師ねりり

中七下五のセンスのいいあるあるに笑ってしまいました。河岸を変えて梯子する=その場が盛り上がった、楽しかったと男の人は考えるのでしょう。上五の「露けしや」に「男って仕方がないわね」とでもいうような大人の女性の余裕が感じられて好きです。

マスクまた舌禍抑へてくれにけり  板坂壽一

「舌禍」という大げさな言い回しや切れ字の「けり」など、一句は重厚な雰囲気にあふれていますが、要するに「俺っていつも余計なこと言っちゃうんだよね〜マスクしててよかったぁ〜」ということ。そのギャップが可愛らしかったです。

狂ひ花ロックスターの眠る墓  嶋田奈緒

さすがはロックスター。死んでもなお自らの墓の周りに影響を及ぼし、花を狂い咲かせます。墓を詠んでいるのに明るさと力強さがあって最高です。

団栗を拾ひつ投げつゆく子かな  サトウイリコ

「拾ひつ投げつ」のリズムがいいです。大人から見れば無意味ともとれる行動をしたがる子どもの特性をうまく捉えた一句です。

ときめきのドアノブ回す冬はじめ  市川悦子

「ときめきのドアノブ」という少女漫画感のあるワードにやられました。冬はじめなのにこのキラキラ感はなんだろう。ドアノブを回した先に秘密の花園がありそうです。

曼珠沙華同じかたちの家並ぶ  知野季里穂

分譲住宅地に咲く曼珠沙華。曼珠沙華はいろんなところに咲くのでリアリティーがあるし、分譲住宅地での少し不穏な人間模様も想像できて、うまい句だと思いました。

セーターを脱ぐ脇腹の白さかな  加藤ナオミ

冬は肌が隠れているし、日焼することもないから、いっそう肌の白さが目立ってどきっとします。女性の色っぽさともとれるし、老いた親の生気のない肌とも受け取れます。

ちくちくとセーターの中逃げまはる  音無早矢

なにがと言ってないところがすごく良いと思います。確かになにかがいますよね、チクチクするとき。

茸狩の籠の中より魔法瓶  山本新

魔法瓶の「魔法」という言葉と「茸狩」というメルヘンな季語が響き合っていてかわいいです。

あかなくて捨てるあめ玉冬の雨  絵空事廃墟

たしかにあめ玉だったら捨ててしまうかも。現代的な句だと思いました。

身に沁むや人づてに聞く吾子の恋  小塩亜紀子

たとえば季語が「チューリップ」とか明るいものだったら全然ちがう句になりますね。ドラマを掻き立てられて大好きな一句。

秋風や足踏みミシンよわめつつ  高木小都

足踏みミシンは俳句によく詠まれるイメージがありますが、「あ」の音の繰り返しや、よわめつつのひらがな表記がとても良くてお上手と思いました。

きのこ狩り悪魔のやうな顔をして  霜田あゆ美

「うししし」という声が聞こえてきそうです。ファンタジーっぽくてかわいい句。

秋声や句集の余白ひろびろと  加留かるか

季語がとてもいいと思いました。小説とは違って、句集なら読んでいる時すこし冷静というか、まわりの音も楽しめるような気がします。

夜半の秋ロールケーキののの字かな 真柴みこと

「の」の繰り返しが目で見ても楽しいです。たしかにロールケーキって春よりも秋っぽい雰囲気を感じます。切り株っぽいからでしょうか。

昨晩の夢でうつりし春の風邪  岡本亜美

色っぽさにどきどきします。実際に夢で風邪がうつることはないので、その辺のさじ加減が絶妙です。「春の」がよく効いています。

法要の白き障子をほめられし  篠秀子

「え、褒めるのそこ?」というズレた感じが面白いです。

満月やパンチの効いた赤ワイン  宇衛鈴子

「満月」という力のある季語に力のある措辞をぶつけた、パワフルな句。俳句ではあまり見ない「パンチの効いた」という表現が面白いです。

最後に、拙句をひとつ。

秋刀魚の尾グリルの窓に当たりをり  千野千佳


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