セクト・ポクリット【コンゲツノハイク】(2022年2月)より好きな句
メンタムの蓋の少女や聖夜来る 山口昭男(「秋草」)
季語で一気に物語が広がります。調べてみたら少女なのはメンソレータムで、メンタームは少年だったのでしたが、そんな細かいことは大事ではありません。
しぐるるや鉛筆にほふ投票所 渡辺一二三(「秋草」)
投票所は俳句を作りたくなる場所だと思います。(俳句同人「傍点」もツイッター上で「傍議院議員総選挙句会」を開催していました!)シンプルに鉛筆のにほひに焦点を絞ったところが見事。
パスワード幾多作るや鰯雲 林恵美子(「稲」)
全部おなじパスワードにするのは危険なのでいちいち違うパスワードを作るのですが、みなさん一体どうやって管理しているんでしょうか。現代をさらりと詠んでいて素敵です。
十三夜見送りもせず帰したる 山田美恵子(「火星」)
毎回客人をきちんと見送りする方なのでしょうね。それをしないのはそのひとなりの強い反抗。居心地の悪さが季語と響き合います。
セーターの配管に身を通しけり 中塚健太(「銀化」)
配管はやや大袈裟では、と一瞬思いましたが、反論を受け付けない言い切りが気持ち良いです。
花野描く花野の端をすこし出て 田村祐巳子(「香雨」)
「端」という言葉が素直でかわいらしいし、花野を描くキャンバスから、花野全体に広がってゆくようなカメラワークがいいです。
同じドア並ぶアパート鰯雲 岡根尚美(「香雨」)
アパートに同じドアが並んでいるというのは当たり前のことなのですが、こうして俳句になるとなんだか不思議な景色に思えてくるから面白いです。鰯雲という季語から、(鰯のように)つつましやかな木造アパートかもと思ったりしました。
洗濯ばさみはさみ疲れやそぞろ寒 川上弘美(「澤」)
プラスチックの洗濯ばさみが劣化してゆく様子を「はさみ疲れ」と表現したことの詩心、優しさにぐっときました。「はさみ疲れ」、使ってみたい言葉です。
肘つけばおでんの屋台ぐらぐらす 鳳佳子(「澤」)
何気なくついた肘で、おでん屋台全体がぐらぐらしてしまってびっくりしたのでしょうね。楽しい句。
吾の息眼科医の息冬隣 依田善朗(「磁石」)
診察のときに眼科医と思わず近づいてしまったことを、息に焦点を絞って表現したところがすごいです。モノで見せることの強さ。季語によって息の生あたたかさまで感じるようです。
秒針にチクとタクある夜長かな 池田宏陸(「鷹俳句会」)
慣用句の「チクタク」を逆手にとっているところがすごいです。そう言われると、たしかに「チク」と「タク」があるように聞こえてきます。
天高し御飯のごとく薬食べ 大森藍(「街」)
大量の錠剤を少ない水で飲み干す景を思い浮かべました。(人工透析をされている方などによくあることです。)明るい季語で、薬や病気と折り合いをつけて付き合っているような気持ち、ユーモアが感じられてよいです。
こちらのサイトより句を拝借しました ↓
また、こちらにも鑑賞を投稿しました↓