「VR AVを語る」ことを語る(1)
『このエロVRがすごい!』というエロVR(VR AV)の草の根アワードの編集係をしています。基本的な投票ルールを決めたり、開催スケジュールを決めたり、投票フォームを作ったり、集計したり、結果発表ページを作ったりが主な役割です。
2022年2月10日には第9回2021年下半期の結果発表を行いました。
https://sugoi-vr.org/2021-2nd-index/
ここで語りたい2つのこと
公開した後、ある投票者からツイートとブログ記事で今回の結果について異論がありました。それに対してエアリプ的な反論もありました。今のところ小さな波紋にとどまり、はっきりした議論には発展していませんが、ふわっとしたレギュレーションで運営してるなあ、という自覚があり、いい機会なので自分の意見を書いておきます。
もう一つは、エロVRを語るということの難しさとおもしろさについてです。今回の異論は、エロVRを語るということの難しさから生じたものじゃないかと思います。もともと、エロVRを語るということについてつらつら考えていたので、これもちょうとよい機会でしょう。
小さな波紋。私はこう思う
結果発表当日の夜に公開されたその記事は、作品部門で上位に入った中に「推し事」投票と判断できるものがあり、それを除いた正しいランキングを独自に発表するぞ、という趣旨のものでした。
私の意見は、作品部門上位の投票は全部妥当なものだった、です。
そして異論を唱えた記事をたいへんありがたいとも思います。
このエロについてずいぶん真剣に考えてくれた記事です。うれしいことですが、除かれた作品に投票した人には、ん?と引っかかるかも知れません。
推し事投票はご遠慮ください、とは毎回呼びかけていることで、女優部門の結果がおかしくならないようにするためです。熱烈なファンが推し女優を上位にするため、10個ある投票枠をその女優の作品で埋め尽くすと、投票母数が少ないので一気に上位を獲れてしまう。
女優部門を守り隊
そのため、女優部門は不要とか、意味が無いという声が何度もあがっています。
しかし編集係の私は、集計のために作り上げたスーパーRDBS(リレーショナルデータベースシステム!)「このエロ奉行クラウド」を駆使したいあまりに、そんな声もどこ吹く風と集計しています。すごいんですよ、このエロ奉行クラウドは。
……いえ、女優部門は守るべき、集計するに足るものだからやっているんです。
女優部門と言っても、女優個人への投票は募りません。作品に投票されたら、出演者にポイントを付ける形で集計します。たとえばAという作品が2票得票したとします。すると、出演していたaさんに2票入ったと考えます。Bという共演作品が1票獲得したら、出演していたbさんとcさんに1票ずつ入ります。
ですから、ハーレム系共演作品が得票すると、得票する女優さんがごそっと生まれるわけです。
たくさん出演作があって、その中に評価の高い作品もあった、いうなればその期に活躍した女優がわかるというのが価値だと思っています。
このエロが誕生したのは2018年1月です。この頃はVRに出演している女優は少数でした。ユーザーにとっては、VRに出てくれるだけでありがたいという状況だったんです。
VRがAVのジャンルとして定着するかまだ半信半疑なところもあって、ユーザーとしては、短い期間で消えていった3D AVの轍を踏むんじゃないかと不安でもありました。
VRなんか男優と芝居する要素が希薄だから、本気のエロが見せられないよね、的なプロデューサーの意見がTwitterのタイムラインを流れたこともありました。
さらには、VRに出演したくない、という女優さんもいたりしたんです。
今とはずいぶん違うんです。
人間相手でなくカメラに向かって演技するVRは、上手い女優とそうでない女優がはっきり分かれていました。
第一回で上位をとった、みひな(当時は永井みひな)の演技は衝撃的に上手かった。おなみちゃんもスーパーエースとして圧倒的な人気を集めました。創成期の立役者、美咲かんなはキスがもう違っていた。
そんなこんなで、VRに出てくれる、しかもVRが上手い女優が限られていたので、出演作が多く、しかも票を集める作品に出演していたというのは、部門としてじゅうぶんに成立する説得力があると思っています。VRが上手な女優が多くなった今も、その期のVRを代表する女優が選ばれているという印象を私は持っています。
しかし、推し女優を上位にしたい勢というのはやっぱりいるわけです。推し女優を投票するのはほとんど問題じゃないんです。問題は推し女優で投票枠を染められると女優部門の数字に納得感がなくなること。いや、もっと大問題があります。
それ、VRとしておもしろいの?っていう作品が混じってくること。
VR AV愛ゆえの選考じゃないでしょ?っていう作品が混じってくること。
女優部門を守りたいんだけど、それによって作品部門の結果が歪むのは困ります。
悩みどころなんですよね。
でも、大丈夫なんです。
作品部門はゆるがない
編集係の日々を少し紹介すると、投票期間中は毎日新規投票がないかチェックするんです。あの人、今回は参加してくれないのかな、やった、新しい人来てくれた!
一喜一憂してるわけですが、編集係の仕事はそこからです。投票をこのエロ奉行クラウドに入力しなきゃなりません。対象期間内の新作かチェック。女優無記名作品はサンプル画像を一枚一枚見て記憶を呼び覚まし、わからなければネットをググりまくり、それでもわからなければメーカーに問い合わせ、判明した女優名を入力。監督(これはクレジットされてる分だけ)、メーカー名も入力し、パケ画像も専用のこのエロ奉行ストレージに保存。
そんな編集係業務にいそしんでると、明らかに推し女優で染めたっていう投票がまれに(ほんとにまれに)あるわけです。
そしたらDMするんです。これこれこういうことなんで、ちょっと見直してもらえませんか、と。
これまで、みんな快く協力してくれました。VR AVを愛する人はやさしいのです。
ノミネート無しとは海図の無い航海
とは言え、微妙な投票はやっぱりあります。
でも考えてみてください。
このエロはノミネート制を採用していません。対象期間内の新作は全部候補です。
2021下半期はSOD VRがFANZAで販売停止になったため数えるのをやめちゃったのですが、これまでは毎期新作の数をFANZAで数えてました。半年で1200〜1300本くらい新作が出ています。
投票者の中には期間中に100本以上見るという豪傑もいますが、それでも10分の1に満たないんです。
2Dに比べればずいぶん安価ですが、それでも1本1000〜1500円くらいするものを何本買えますか。購入作品は全部同じ女優ってことはありえますよね。
このエロのために、好きな女優にこだわらず、新しいことをやってそうなのはとにかく買う。ということを私はできるかぎりしていましたが、2020年過ぎてからもうやめました。
それでも作品部門はゆるがない
仮に推し女優で10枠を染めた投票があったとしても、作品部門で上位に入るわけではありません。ノミネート無しの1000作品以上から数十人のエロVRユーザーが同じ作品を選ぶのはなかなか難しいことですから。
組織票には注意しなければなりませんが、特定の女優ファンがいっせいに同じ作品へ投票する現象はこれまで一度もありません。
このエロに投票してくれるVR AVユーザーはやさしいし、まじめなのです。
異論そのものへの回答
もう少し、真正面から異論に向き合います。
異論を唱えてくれた投票者は、このエロについて結果発表当日の前にも、このエロについてブログ記事を書いてくれています。
それを合わせて読み直してみると、その投票者が件の投票を「推し事」と判断したのは「女優そのもの」を理由にしているから、と読めます。
その女優が出演しているから選んだ、というのは推し事でしょう、という判断です。
ここはとても難しいところで、そしてまたとてもおもしろいところです。
「女優の演技」が理由なら「女優そのもの」とは判断しない、ということでしょう。
私が今回の作品部門上位の投票は全て妥当だと思う理由は、「女優そのもの」も選考理由になるよね、そりゃAVだから。というものです。
VRは2Dよりも体験的です。好きな女優にVRに出て欲しい。でも引退しちゃったらもう無理。松野ゆいとあらきれいこと松本ミナミのVR AVが出たらどんなにうれしいか。
引退した女優が復活してVRに出たら、出演したこと自体が選考理由になるのは当然だろうと思います。
ここがAVを語ることの難しさとおもしろさです。
映画だったら特定の俳優が出演したことは、映画そのものの評価にはなりません。
再現性をAVに求めるべきか
結果発表前の記事には、とても自分にとっては良いVRがあったが、違う女優だった場合でも良かったとは言えないから選考しなかった、というようなくだりがあります。
つまり、これは「再現性」という視点です。
再現性については後でも触れますが、私自身、このエロに参加してきてずっとやっていたことは、その作品の何が良かったと自分に思わせたのか、その道具立てを明らかにすることでした。極端に、あくまで極端に言えば、どの道具立てが揃えば同じような傑作が生まれるだろう、再現できるだろうというところまで明らかにしたいという欲望がありました。
高校生くらいまで、私は役者というものは姿が良ければあとはセリフをちゃんと言えればなれるものだろう、なんて物知らずにも思っていました。その人だからこそ生まれるものがある、作品世界を作り出すことができるなんて思いもしませんでした。役者の魅力というものがよくわからなかったのです。
俳優というのは即興性の塊のような存在です。人気のある俳優を完コピしても(必ずしも)人気は出ないのです。
では再現性はまったくあきらめるべきか、というとそれももちろん違います。
再現性を求めることが可能な部分への視点と、その女優だからこそ成り立っている部分への視点が両方必要なのでしょう。
再現性を求めることが可能な部分というのは、たとえば撮影技術のようなことだったり、体位の流れや見せ方だったり、これまでの映像とは異なる舞台的な演出だったり(演出は即興性によるところが大きいとも思います)。
みんな違うからおもしろい
突然めんどくさい話をはじめてしまいましたが、これは私がそういう視点でこのエロに投票してる、投票したい、レビューを書きたい、というだけです。
投票する人がそれぞれ自分の見方で、好き勝手に語るからおもしろいのです。
というと摩擦を避けた落としどころみたいですけど、本気です。
だから、このエロは、なるべく好き勝手に語れて、そして他人の好き勝手をおもしろがれる居心地のよい場所になればいいなと思っています。あいまいなままにしていることが多いのはそういう理由ですが、あいまいだから居心地が悪くなることもありますよね。
自由にやってください、ということを言葉にするほど不自由さは増してしまいます。たくさん語りましたが、ご一読いただいたら忘れてください。
なお、2021年下半期のレビューはキラッキラでした。
エロVRを語ることのおもしろさ
いよいよ、本編ですが、次回に持ち越します。でも次回はないかも知れません。
キーワードは「味わう」です。
サッカーの話から入ることになるでしょう。W杯アジア予選、日本対中国、中山のクロスに伊東が見事に合わせたゴールのとき、中国の2番はなぜマークを離してしまったのか。