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3. 消えた温もり

廃ビルの一室に戻ったハルキは、部屋の片隅に腰を下ろした。空っぽの部屋は冷え切っており、薄暗い光がコンクリートの壁に影を落としている。冷たい床の感触が彼の背中を通して全身に広がり、ハルキは少し肩をすくめた。手に持ったわずかな食料を見つめながら、彼の意識はいつしか過去へと引き戻されていった。

かつてこの冷たい空間にも、温もりがあった。母の紅茶を入れる香り、妹の無邪気な笑い声、そして父の力強い声が響いていた。彼の家族はいつも一緒に朝を迎え、食卓を囲みながら未来への希望を語り合っていた。

その朝も、いつも通りだった。陽の光が優しく部屋に差し込み、ハルキはベッドから起き上がると、眠そうな目でキッチンへ向かった。
エプロンを身に着けた母が、「おはよう、ハルキ」と微笑みながら声をかける。彼は少し恥ずかしそうに「おはよう」と返事をし、妹のサヤが嬉しそうに手を振った。

「ハルキ、学校はどうだった?母の優しい問いかけに、ハルキは照れながら「普通だよ」と短く答える。そのやりとりに、
サヤが「お兄ちゃんすごい!」と無邪気に笑った。その瞬間、家族の温もりがこの小さな部屋を包んでいた。毎日の些細なやりとりこそが、彼にとってかけがえのない宝物だった。

しかし、そんな日々は突然終わりを告げた。街に災害が襲い、全てを変えてしまった。父が最初にいなくなり、街が崩壊していく中で生活は厳しさを増していった。母は彼を守るために尽力したが、彼女の力も次第に限界を迎え、家族はバラバラになっていった。

ハルキが帰宅したある日、家は静まり返っていた。いつもの母の声も、妹の笑い声も聞こえなかった。冷たく広がる静寂が、何かが起こったことを物語っていた。彼は急いで家の中を探し回ったが、二人の姿はどこにもなかった。その後、彼が知ることになるのは、母と妹がこの街で命を落としたという現実だった。

現在の廃ビルに戻ったハルキは、空虚な部屋に響く自分の心音だけを感じながら、手にした食料を見つめた。過去の温もりは消え、家族との時間は失われてしまった。それでも彼は前を向かなくてはならない。冷え切った部屋で一人きり、彼はかつての幸せな日々を噛み締めながら、冷たい食べ物を口に運んだ。

「守れなかった…」

その言葉が心の中で何度もこだました。母の笑顔、サヤの無邪気な声、それらをもう一度取り戻すことはできない。それでも、ハルキは立ち上がるしかなかった。家族を失った痛みと後悔を胸に秘めながら、彼は明日を生き延びるための準備を続ける。

消えた温もりを背負いながらも、彼は前へ進むしかない。家族の記憶が彼の背中を押し、未来へ向かうためのわずかな光を彼の心に残していた。

(4. 夜の決意へ続く…)


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