私を洪水に追いやった姉がいて
いつも酷い頭痛に悩まされる
スプーンや菜箸をやおらと持ち上げる習慣のせいで
編纂した辞書は全部私の産声で埋め尽くされた
おかげで生きることは大変な仕事になった
結婚しようとする人に音楽がないように
私にも楽隊がいない
荒れた庭を手入れしてるのは誰か?
それを野生動物たちがぐるりと取り囲んで見ている
ただ見ている
そう、見ていてくれるだけで肯定されるのだ
静寂に白いものが混じる
空からちらちら降りて来る
夢を見た時の映像にもちらちら混じる
解像度が次第に落ちてきて
もう思い出とかもはっきりしなくなった
数えることは止めてしまおう
いや寧ろ止めないでと言うべきか
若いまま死んでいくあの黒い鳥にも影があって
それを記録した映画が何処かで完成する
だから嫌いな季節がまた増えて
その度に新たな季節を引っ張って来なくてはならない
ほねがおれる
いきがきれる
たいへんなしごとだ
がんばるしかない
何も描かれていないのではなく
誰もいなくなっただけ
かくれんぼしてるうちに見つけて貰えなくなった
それが気持ちよくなっただけ
好きな線を集めなさい
好きな色を使いなさい
絵の具箱の中で一回り大きなチューブ
間違えたなら修正してあげる
透明になんてさせないで
見てればいい
貴方はただ、見てればいいの
尻尾の退化した動物たち
周りをぐるり取り囲んで、だから
緊張して手元が狂って
爪が割れて、色が滲み出た
途端に不安になって、光を集めたくなる
だって色なんてどれだけ重ねても白になんかならないし
黒に近付くだけだから
がんばろう
かさねよう
それがいつか黒い翼となって
やがて雲の影と見間違うまで
(他に方法ってある?)
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お読みいただきありがとうございます。実は子供の頃は、何故白の絵の具だけサイズが大きいんだろう?と、その理由がわからなかった。