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子供のためではなく自分のために有給を使ったら、幸福感で満腹になった話

気がつけば子育て歴19年。
我が家に小学生がいなくなり、急に自分の時間が増えてきたのを実感する日々だ。
ある日、市の広報を見ていると、普段SNSで追っている人の講演会の告知が目に止まった。
こんな田舎にあの人が来てくれるのか、これは何かの縁かもしれない。
直感で講演会の抽選に応募した。
すると間も無く当選通知が届いた。

当選の文字に心が飛び跳ねたのは束の間。
この講演会は平日にあることにこの時気づいた。
行くには仕事の休みを取らなければならない。
行くか。
やめておくか。
せっかく当選しているのに消極的な気持ちになった。

翌日、恐る恐る上司に有給を取りたい旨を伝えた。
これまで子供の行事には有給をヤマと取ってきたが、今回は私の意思で休みを取る。
子供のために取る有給の申し出にはさほど緊張しないのに、自分のためとなると途端に後ろめたい気持ちになった。

上司はそんな私の胸の内には気づかない様子で、いつも通りひとつ返事で有給を了承してくれた。
ホッとした。

当日。
講演会は午後1時から。
1日有給を取ったので、フリーの時間も割とあった。
そんなレアな1日を有効に使おうと、午前中は美容室を予約しておいた。
馴染みの美容師に「平日に来てくれるのは珍しくない?」いつも行く土日より静かな店内で、施術の合間にゆっくり話ができた。
美容室を出て、決めていたカフェに向かった。
休日の買い物途中などに1人でカフェに立ち寄ることはあるけれど、以前から目をつけていたこのカフェは土日が定休日だった。
土日休みの私は、こんなことでもないと行けなかったお店。
リサーチしていた噂のランチを注文し、食後にコーヒーをいただいた。
試作をどうぞ、と焼き菓子を一口持ってきてくれた店主と少し話をした。
ジャズが流れる大人の雰囲気の空間の中で、たわいもない話から同じアーティストが好きというのがわかり、意気投合した。
店を出る間際には
「また平日のお休みには寄ってくださいね」
と。
そんな出会いが嬉しかった。

いよいよ講演会場に向かう。
1人で何の役目もなく、誰のためでもなく、私の希望で今こうしてここにいる。
そんなことを思いながら、席についた。
2時間はあっという間だった。
推しのコンサートに行った時のような充実した時間で、有給をとってよかったと心底思った。

ふと、講演会に来なかった場合の1日を考えた。
おそらく仕事と家の往復、ごく普通の日常だったはずだ。
それを自分の意思で仕事を休み、行きたい場所へ行けるように段取りをしたから、こんな1日になった。
自分の意思で。
私がしたくてしたこと。
私が私のために選んだこと。
私は私を大事にできている。
そんなことをかみしめた帰り道だった。

スーパーで夕食の買い物をしながら、日常に戻っていく。
でも嫌じゃなかった。
早く子供におかえりを言いたい。
今晩は少し目新しいものを作ってみようか。
足取りが明らかに軽い。
見えている景色がとてもカラフルだった。

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