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最初の記憶

人って一番古い記憶はいつ頃のものなんだろう。オレは過去の体験をきれいさっぱり忘れる能力が他人よりも長けているので、幼い頃の記憶もあまり定かではない。

いま思い出せるものとして最も確実なのは、4歳になって間もない春のこと。たしか姉の小学校入学の日だったと思う。朝から母と姉は2人で出かけて行ってしまった。おそらくそれまでのオレは毎日母の傍にくっついていたのだろう。初めて迎える母のいない1日となった。(と言っても数時間だと思うのだが…)

甘えん坊のオレはたぶん泣いたに違いない。会社を休んでくれたのか、不安げなオレを父が遊園地に連れて行ってくれた。もうなくなってしまった阪神パークに。園内で遊んだ記憶はほぼない。ただ、帰りに遊園地のゲートを出たところで父に肩車をしてもらったのだけは鮮明に覚えている。

さらに、時期は明確ではないが、それより前と思われる記憶も1つ2つある。しかしここに書くのは母に関すること。でなければ、何のためにnoteをはじめたのかわからなくなる。

ということで、母との思い出の中から一番古いものを引っ張り出してみる。あれは保育園でのできごと。何かの行事の日だった。卒園式だったのかもしれない。記念撮影をすることになったようで、園児が椅子に座り後ろに保護者が並んで立っていた。オレはとにかく落ち着きがなく、じっと座っていない。後ろを振り返ったり椅子の上に足を乗せたり。

「写真撮るから前を向いて大人しく座ってなさい」
そのようなことを母は何度もオレに言ったはずだ。それでもオレは注意力散漫でガチャガチャ動いている。その瞬間、カメラのシャッターは降りた。

その日、家に帰ってきてから母は烈火のごとく怒った。オレはギャン泣きした。いやぁ、あんなに怒る?ってぐらい怒られた。それ自体も悲しかったのだが、何より母から言われたひと言でめちゃくちゃ自己嫌悪になったのを覚えている。

「あんた以外みんなちゃんと前向いて座ってるのに。大事な日の写真でこんなことして。ずっと残るんだからね」
もちろん正確ではないが、これに近い意味合いのことを言われた気がする。オレが受けたダメージはデカかった。まず、自分以外はみんなちゃんとしている、ということ。そしてこの失態は将来までずっと残る汚点だということ。オレは子ども心に、自分がどうしようもない出来損ないなんだ、と感じた。

そして夕方頃、姉だったか祖母だったか、誰かが「もう泣かないで、家の中に入りなさい」と声をかけにくるまで、庭で飼っていたうさぎの檻の隣でずっとしゃがみこんでいた。

せっかくなので母との最初の思いで話はもっと楽しいものが良い。しかし確実な記憶となるとこれになってしまう。保育園の卒園式だとすると、5歳になった直後ぐらいだ。さすがに5歳になるまで母と接していた思い出がない、なんてことはないはずなのだが…。

いつだかわからないものであれば、これより前と思われるぼんやりした思い出があるにはある。ただほんとうに保育園写真撮影事件より前だという確証もないし、語れるほどのエピソードとしての記憶も残ってない。断片的な一瞬の場面だけなのだ。

うーん…、それにしても。できることなら母との一番古い思い出は、もうちょっとハッピーなできごとに塗り替えたいよなぁ。頑張れオレの記憶力!

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