ラーメン業界のプライスリーダー論
SORANOIRO麹町本店は、2019年の3月からグランドメニューをフルリニューアル。これに伴い、ラーメンの価格帯は1000円~1700円になりました。
10月の消費税率アップのタイミングでは価格は変更していません。価値のあるラーメンを、1000円~という売価でしっかり提供していく。そんな僕たちの思い、意思がこの価格帯には反映されています。しかし、よく言われるようにラーメン業界には「1000円の壁」なるものがあります。SORANOIROとして、売価の設定に悩んだこともありました……。
今回は、ラーメン業界、そして他業界のプライスリーダーを参照し、「ラーメンの提供価格」について考えてみたいと思います。
前回のエントリで春木屋について書きましたが、「春木屋理論」を掲げ、味を追求し続ける姿勢はもちろん、「東京ラーメンシーンのプライスリーダー」という側面も見逃せないと思います。
基本メニューの「中華そば」が850円。全部入りに等しい「ちゃーしゅーわんたん麺大盛り」だと、1900円。
凛として、ブレない値付けがここにあります。永福町大勝軒もそうですが、老舗は値付けにも老舗たる風格があります。高価格で、しっかりとした付加価値を提供していく。この意識を明確に示したという意味で、春木屋、永福町大勝軒は現代ラーメンの源流になっています。
そして、僕の師匠である河原成美が創業した『博多 一風堂』もまた、プライスリーダーとしての姿勢を明確にして進んできました。もともと福岡はラーメンを安価で提供してきた街。一風堂の創業当時も博多ラーメンは250円~300円といった低価格帯でしたが、河原は東京など他エリアに準ずる価格のラーメンで勝負しました。
僕は春木屋、一風堂という業界屈指のプライスリーダーに多くのものを学んできています。2016年に挑戦した『素良』ではデフォルトのラーメンの価格を1000円に設定し、「1000円の壁」という常識の打破を目指しました。
もとはといえば、この価格設定では、福岡の『ひいらぎ』という珈琲店という店にも大きな影響を受けています。
ここは師匠の河原成美が好きな店なんですが、河原が通い始めた30数年前、一般的なコーヒーが180円のところ、一杯450円のコーヒーを福岡で提供していました。移転を経た現在は、一杯900円という価格で提供しています。
ひいらぎの店主曰く、お客様から「高い」と言われたことはないそうです。それは、店頭に「珈琲900円~」というメニューを掲げてあるから。このアナウンスがあるから、「上質な珈琲であるなら、900円という対価に値する」と考えるお客様しか入ってこない、というわけです。
このマインドは春木屋にも通ずるものがあるでしょう。素材をしっかりと厳選し、店主はじめ従業員が手間暇をかけて作る。店内の環境もしっかりと整える。そんな自信があるから、正当な値段をつけたラーメンが提供できる。そんなお店だからこそ、しっかりと価値を見出すお客様が訪れてくれるのです。
SORANOIROも、ここでしか食べられない唯一無二の味、心地よいサービスとホスピタリティ、そして非日常的な空間をはじめとする店内環境――僕たちにしかできないものを提供しているという自負があります。
だからこそ、麹町本店のエントランスには「1000円~」という売価をハッキリ提示。お客様にはスタンスを理解してもらってから味わっていただいています。
幸い、フルリニューアル後もお客様の来店数は減ることはありません。価値をわかっていただけるお客様に支持されていることはすごくうれしく思っています。
現状に妥協することなく、常に味の研鑽を重ね、変革を続ける。
春木屋、一風堂、そしてひいらぎ。先人たちからは多くの学び、気づきをいただいてきましたが、プライスリーダーたちはそこにとどまることなく、常に味やサービスを見直し、改善を図っています。そのひとつが、「春木屋理論」と呼ばれてきたのでしょう。ラーメンだけではなく、サービスやホスピタリティ、内装やクリンリネス……。提供するもののブラッシュアップに終わりはないのです。
SORANOIRO 宮崎千尋