2020年4月・外食産業で考えること
後出しジャンケンをしても意味がない
飲食は「現場」からすべてが始まります
今回のコロナショックで、飲食店、外食産業は大きな転換期を迎えていると思います。僕たちSORANOIROもコロナウィルスの感染拡大を鑑み、お客様の安全、従業員の安全を考慮して1週間を休業とさせていただきました。
緊急事態宣言を受けて一時休業する店があり、営業をする店があり、短縮営業する店もある。その店の状況、オーナーの決断、経営状況はそれぞれ違うので、すべての店の判断が正しいものだと僕は思います。
ただ、僕が痛感したのは、インバウンドでもブームでも「何かに頼っちゃ駄目だ」ということです。今回のコロナショックは、いろんな店の「地力」を浮き彫りにしました。影響を受けなかったお店もあったでしょうが、僕たちは「まだまだだ」という思いを新たにしました。スタッフで力を合わせて地力をつけ、どんなことがあっても支持される店、生き残っていく店を目指さなければならない、と決意を新たにした次第です。
インバウンド需要の大きなうねりとコロナによる退潮、そして慢性的な人手不足。「フードテック」というバズワードに象徴されるように、飲食業界もIT化、キャッシュレス化、セルフ化の波が押し寄せています。どんなお店が生き残っていくのか、ポストコロナの時代に、消費者はどんなお店を求めていくのか――ギリギリの経営判断をしつつ、見極める時期が来ています。
コロナショックに翻弄される昨今ですが、今回はある外食チェーンの動向について思うことを書いてみたいと思います。
ご存じの通り、ステーキチェーン「いきなり!ステーキ」が苦境に陥っています。2期連続で赤字を計上し、20年中には70店舗を閉店する見通し。一瀬邦夫社長もネットなどでバッシングを受けていますね。先日の『カンブリア宮殿』で、すかいらーく創業者の横川竟氏と一瀬社長の討論では、来店を呼びかける張り紙を掲示するなど、「いかにおいしいものを作っているか」をアピールし続けるスタンスが批判されました。
確かに、それも一理あるかと思います。「いかにいいものを提供しているか」「分厚いステーキをこれだけの原価率で出しているか」という主張は、お客様視点の発想ではなく、店舗側のエゴでしかありません。
僕は師匠やラーメン界の大先輩から教えを受け、「お客様は何を考え、何を欲しているのか」を第一義に考え、店舗づくり、味づくりを進めてきました。その点では、一瀬社長を批判した横川氏に通ずるものがあります。
今落ちている「いきなり!ステーキ」を批判、否定するのは、すごく簡単で、楽なことです。だけど、短期間で500店舗という規模に成長させたことを忘れていませんか? と僕は言いたい。勢いがあるときはユニークな立ち食い業態に注目してほめそやし、失速したらすぐに叩く。これって、どうなんでしょう?
一瀬社長の活動を見ていると、店舗を見て気になったことをボイスレコーダーに吹きこんでアイデアをストックするなど、本当の意味で現場主義の人だな、と感じました。現場でいろんな打ち手を考え、ひねり出している。ここまで現場でもがいて、苦しんでいる経営者は、そうはいません。
お客様への直筆の掲示も賛否両論あるでしょう。だけど、情熱を持って真摯にメッセージしているのは確かです。消費者がどう感じるかは自由ですが、メディアの論調として、その誠意を叩くのはいかがなものでしょうか。少なくとも、僕はバッシングには同意できない。
すかいらーく創業者の横川氏も卓越したチェーンストア理論を持って『ガスト』『藍屋』などを成功させ、今も『高倉町珈琲』など、新しい試みを続けています。お客さんが求めているものを、その立場に立って徹底的に考え続ける姿勢には学ぶところしかありません。僕も、「いかがでしたか? という姿勢で食べていただけ。腕自慢で『作ってやっている』という姿勢で作っては駄目だ」という教えを守っているだけに、大いに共感します。
だけど、そこに「現場に立つ」「情熱を持ってやる」一瀬社長のような熱い思いを乗せたら、さらに素晴らしいものになるのではないでしょうか。上記の通り、外食産業は大変動、大変革の時代です。人口減少社会に突入する中、メガチェーンにも限界が見えるのかもしれませんし、社会経済環境がきわめて予測困難な情勢の中、個人店・中小規模の店が厳しくなるかもしれない。それはまだ誰にも分かりません。だけど、「お客様の立場に立った視点」と「経営者の情熱」は不変です。それはいかにIT化、自動化が進んでも、AIやオートメーションには代替されないものだと思うからです。結果だけを見て、後出しジャンケンをしても、何の意味もない。僕も現場に立ち、お客様とコミュニケーションを進める中で、新たな時代の進路を模索していければと考えています。