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「こだわり」とラーメン職人の深い関係

「こだわり」がなければ客商売なんて
できっこない! 僕はそう思います

最近、こだわりがない人が多いな……ちょっとおじさんっぽいかもしれませんが(笑)、最近そんなことをよく思うんです。たとえば、スタッフに「休みは何しているの?」と聞いても、「何もしてないですね」という答えが返ってくることがあります。

僕は、その人はどんなもの好きで、どんなことに夢中になって時間を過ごしているのか。それを知りたいのに……。「俺ってこんな人間なんだ!」と言えるものがある。それが「こだわり」だと思うんです。

こだわりが顕著に出るのが洋服ですよね。ナイキやチャンピオン、ルイ・ヴィトンなど、いろんなブランドを身につけることで得られる満足感というものもある。それで気分が良くなったり、元気が出たりする効果もあるでしょう。

だけど、それだけじゃない。僕が尊敬する池田貴将さんは「服装は内面の一番外側にあるものだ」と言っています。どういうことかと言うと、自分のこだわり、先ほど言ったように、何が好きで何に夢中になり、「俺ってこんな人間なんだ!」と言えるものを示す。それが服装だ、ということなんですよ。

自分の中にこだわりがないから服装にも無頓着になり、いわゆるファストファッションで満足してしまう。それは無個性の極みですよ。店長がカッコよくない、おしゃれじゃない。魅力的じゃない。そんなスタッフがいたら、僕はすごく残念に思います。それは食のこだわりにも直結するんじゃないかな。ファストファッションを着るように、食べるものがチェーン店の牛丼やコンビニのチキンだったり。そんな食を選ぶ人に、おいしい料理が作れるとは到底思えません。

「ファストファッション? 安いからいいじゃないですか」――そんなことを堂々と言ってしまうなら、危うさも感じてしまう。その人が「独立したい」と言うようなら、その無個性ぶりに問いかけてみたいですよ。

独立して、どんな店にするの?
外観は何色でもいいの?
どんなテーブルにして、どんな音楽をかけるの?
丼は何にする?

こだわりがなかったら、何も決められないでしょう。ただ機械的に選んだものでは、自分というものが投影された店はできてこないと思います。なぜ、そんな姿勢で商売をしようと思うのでしょうか。

商売の本質はこだわりにある、と僕は思います。

何を着るか?
何を食べるか?
どんな音楽をかけるか?

一つひとつにこだわり、自分で意思決定し、選択していくこと。それが商売というものではないでしょうか。

個性がなぜ出ないのかというと、必要最低限のことしかやらないからです。だから、特にやらなくていいことを、とことんやることですよ。筋トレでも食べ歩きでも読書でも映画鑑賞でも、なんでもいい。過剰にやりきる。その先に個性が見えてくるんじゃないでしょうか。

自分のこだわりを持たず、メディアやSNSに流れているものに乗っかっていく。そんな時代の流れもあるかもしれません。だけど、お店をやろうと思うのなら、何かを発信しようと思うのなら、なんでもいいというわけにはいかないはずです。最近増えている「こだわりのなさ」には、僕は強い危機感を覚えています。

こんな風にして「こだわり」について考えていたら、『もののけ姫』製作途中の宮崎駿監督のエピソードを聞き、すごく納得したことがあります。

宮崎監督は、2日間かけてイノシシを描いた作画スタッフに「このイノシシは嘘だ!」と激怒したそうです。スタッフがあわてて指摘された箇所を見ると、そこは画面からは切れている部分。つまり、映画を観る人にはまったく見えないパーツです。にもかかわらず、宮崎監督は描き直しを指示したのです。

見えないところだからといって手を抜いていいわけではない。そういう宮崎監督のメッセージ、強い思いでしょう。「神は細部に宿る」と言いますが、一見して分からないところ、そこまで見ないよ! という細かいところにどこまでこだわれるかがクリエイターの分かれ目になるのでしょう。

それは料理、ラーメンの世界でも同じです。たとえば、スープを満たしたラーメンの丼をお客さまに渡すとしましょう。片手でほい、と渡したら、傾いて丼のフチにスープがかかってしまうこともありますよね。そこを、両手で渡したらスープがかからず綺麗なままお渡しすることができます。

スープが少々かかってもいいじゃない。スープでちょっと丼が濡れたら、さっと拭いて渡せばいいじゃない――そんな考えも、確かにあるでしょう。だけど、そこには細部へのこだわり、ラーメンへのこだわりがありません。どこまで一杯にこだわれるか。完成度を求められるか。そこが大事なんじゃないでしょうか。

ラーメンを作る局面では、そんなこだわりのポイントが無数にあります。丼をしっかり温めてからスープを入れたりとか、麺を手でほぐしてから茹で湯に入れて、さらに棒でしっかりほぐしたりとか。ラーメンを作る工程の一つ一つに、いくつものポイントがあります。

「麺をほぐす」という一点だけを考えるなら、手でほぐさないまま茹で湯に入れ、棒でちゃちゃっとほぐせばいい。ぱっと見た限り、手でほぐした麺との違いはわからないかもしれない。

だけど、その何気ない、細部へのこだわりが味に関係してくるんじゃないかな。ラーメンを作るあらゆるプロセスで何がいいかを模索し、自分なりの工夫を加えていく。自己満足だけじゃなくて、どうやったらお客さまにおいしい一杯を提供できるか。その一点でこだわり、工夫を積み重ねていく。その先に、おいしさが見えてくるんじゃないか? 僕はそう考えています。

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