
ラストとは 95「ラストシーンでつかまえて」
秋野ひとみ「つかまえてシリーズ」全95タイトルを全巻レビューするのが目標。無作為に選び一冊ずつ、順不同にいきます。
95作目「ラストシーンでつかまえて」2006年
「ラストシーン」とのタイトルに、シリーズ終了を実感。
裏表紙にあるフィナーレ、との言葉が胸をしめつけ、当時のつかまえてシリーズにしてはとても珍しい、上下巻同時出版にも驚いた。
「ラストシーンでつかまえて」出版の2006年当時、小学生のころからリアルタイムで読み続けてきた、長い読者だった私は27歳になっていた。
終わっちゃうんだな。それでも、長い間好きでいてよかったな。
そんなことを考えながら、自分の生活に、長い時間をかけて、実在する友人でもあるかのようにすっかりなじんでいた由香と左記子の最後の冒険を、読み始めた。
ところが、この「ラストシーンでつかまえて」。
舞台が外国、登場人物が多く(そして外国人の名前)覚えづらい。
その他いくつかの要素が重なり、初めて読んだ時の印象、読後の感想としては、
個人的にいくつか腑に落ちない点の残る作品だった。
これが、大好きだった、この「つかまえてシリーズ」のフィナーレだと思うと複雑。
だけどまあいいか、私も大人になったし。
今までありがとう、由香、左記子、そして秋野ひとみ先生。
意外にライトな別れだった。そしてそのまま本棚にしまい、つかまえてシリーズを読みかえすときにはなんとなく、これは選ばない、という存在のまま、また長い時間が過ぎた。
このマガジンを作るために読み返した「ラストシーンでつかまえて」では
あらすじ、登場人物などを整理しながら読み進めることにした。
① あらすじ上巻
事件の舞台はウィーン。志貴一実(シリーズのラスボス的存在となった)に連れ去られたかもしれない速水青史さんを追って、一行はこの地にやってきた。冒頭で由香、左記子、明、薫、圭二郎が誰かにつけられている様子から始まる。それは、一行に事件解決を依頼したい人物からの使者だった。
依頼人の邸に連れていかれ、先に来ていた律泉さん、通訳の上野さんに会う。そこで始まる依頼人の話。
バレンティン・アポストルという、とある小国の独裁政権の中枢にまで昇りつめたという人物から依頼人にあてた手紙が届いた。
遠い昔、譲ると約束して報酬も受け取りながら渡さなかった「シンギング・バード」という芸術品を今度こそ譲るとし、自分の邸に来てほしいと日付を指定してきた。
しかし彼は、十数年前に死んでいるはずなのでそんなことができるはずがない。加えて依頼人は身体の具合が悪く長距離の旅行はできない。
そこで自分の代わりに、「霧の谷」と呼ばれる場所にあるバレンティンの邸に行き、死んだはずのバレンティン・アポストルを名乗る人物から、シンギング・バードを受け取ってきてほしい。
これが、依頼人の由香たちへの依頼だった。
そして由香たちは、最後の舞台「霧の谷」へ向かう。ここまでが上巻。出発までに別の殺人事件を解決したり、日本で留守番をする圭一郎さんに連絡をしたり。そして現地へ同行することになる蓉子さん、警察の捜査官である居波爽子さん、その知人の国際刑事警察機構のヨーゼフ・ロート捜査官など、次々にメンバーがそろい、いよいよ出発の時が近づく。
と、ここまでが上巻。
② あらすじ下巻
由香、左記子、蓉子さん、上野唯子さん、圭二郎さん、菊地さん、律泉さん、明くん、居波さん、ロート捜査官。
邸の管理人ゲオルゲ・キョランさん、キッチン担当のエレナ・ムンテアーヌさん、日本画家の谷津邦博さん、シンギング・バード収集家のグスタフ・アッシェンバッハ氏の代理人として来た妻のアガーテ・アッシェンバッハさん、作家の秋庭晃生さん、その娘の玲花さん、上巻で知り合った日本人男性の小田切由雄さん。
邸に集まったそれぞれが、それぞれに抱える事情や思惑で動くうち、殺人事件が起こる。志貴一実の仲間が紛れ込んでいることを突き止め事件を解決する由香。その最中、志貴一実があらわれ共犯者を「始末」する。由香たちへも銃を向ける彼に対し、由香は過去の事件の真相を後日リヒター邸にて話すことを条件にひとまず別れる。
依頼人であるリヒター邸にて、ついに明かされる真相。恐ろしい結末。
そのあまりの救いのなさに、由香は帰国後桜崎探偵事務所から姿を消してしまう。数か月後、ひとりで苦しむ由香を圭二郎さんが迎えにきて…
これで物語はおしまい。
③ この作品をわかりづらくしたもの
初めて読んだときにそう感じた理由をいくつか、今回の読み返しで発見した。そして今回、ゆっくり整理しながら読み進めたことで、やっとこの作品が理解でき、二度目の出会いを果たせたような気がした。
この作品をわかりづらくしたもの。
まずは、「外国もの」だということ。
秋野ひとみさんの傾向として、外国人の登場人物がいるとき、その名前が長いということが言えると思う。長い人名が好きなのだろうか。
敬称も含めて、全部をまともにカタカナ表記するから文字数に対して情報量が少ない。だから、読んでいで何を言ってるのかよくわからなくなる。
「フロイライン・クドウ」「ヘル・サクラザキ」
由香と圭二郎が、会話の中で名前を呼ばれるたびにいちいちこれが本文に入ってくる。
外国人の個人名「バレンティン・アポストル」「ヘルムート・リヒター」などを繰り返しはさみながら進むお話。覚えきれないうちに新たな外国人名が登場。
次に、「別名を多用しすぎてわからない」と言いたい。
第一の殺人事件の被害者となったオットー・ゴルトマンさんはバレンティン・アポストルの秘書で、「スタン・モンテアーヌ」という名も持つ。
「シンギング・バード」という美術品には種類があり、今回由香たちが探すのは「トホター・デル・ツァイト」というものらしい。
シンギングバードという言葉をやっと覚えたのに違う言語で別名出されたら一致しない。
その後も、依頼人であるヘルムート・リヒターにも本名がありそれが驚くようなものでのちにそれがもう一度覆されたり、「クラウディア・ヴィンター」として登場したばかりの人の偽名使用がすぐに発覚して「マリア・シュタイガー」になり、この人ももう一度違う名前になる。
折角覚えたグスタフ・アッシェンバッハ氏は来なくて夫人のアガーテ・アッシェンバッハさんが来るとか。
もはや何を書いているのか自分でもわからなくなるが、そんなことの繰り返し。
それから、「壮大すぎる」と感じてはだめだろうか。話が大きすぎて、意味がつかめなくなる。いつ、どこで起こったことに焦点が合って話が進んでいるのか、ちょいちょい見失ってしまった。志貴一実って、最初から外国人設定だったっけ…。志貴の存在が異常なものになりすぎていると感じてしまった。
初めて読んだときに理解できなかった原因はこういうところにあった。
④ 「ラストシーン」への疑問点
長く続いた人気シリーズが、(見方によっては)ハッピーエンドではなく終了した。私は長いこと、この作品に対してそういう感想を持ってきた。
本当に、秋野ひとみ先生は由香たちの物語を、こういう風に終わらせたかったのだろうか。
作者が決めた最終巻の内容だったのか。
作者が望んだ方向だったのか。
わかっていながらラストを外国ものにしたのか。
長いファンとして一番残念だったことは、由香が笑顔で終わらなかったこと。傷ついて打ちのめされたまま終わったように、見えること。
そのさびしさを、あとがきが救ってくれているけれど。
個人的には、圭一郎さんも最後の事件一緒に活躍してほしかった。
⑤ 「つかまえて」ラストのあと
初めて読んだときよりずっと面白かった。
この全巻レビューは、残りあと一冊で終了する。
本棚から無作為に取り出したものを一冊ずつやってきたけれど、この「ラストシーン」は、最後のひとつ前に選ぶことを決めて作為的に残していた。
それは、やはり苦手意識があったから、ということもあるだろう。
だけど、今回メモを取りながら外国人名を整理して読み進めたことで初めのときは理解できなかったことがつながったし、よかったと思う。
私は、この作品を以てシリーズが終了したあとも、しばらくの間書店に行ったときには毎回、これまでティーンズハートを置いてあったあたりのコーナーを確認することが習慣になった。
たしか、三年くらい続けたのではなかったかな。
あれで終わりなはずがない、とでも思ったのかな。
新しい「つかまえて」作品が並んでいて、なんだ~やっぱり、と言いながらまた由香と左記子に会えるような気さえしていた。だけど、いつ確認してもそんなことはなかった。
今回、読み直したことでやっと、由香がちょこんと、私の心の中のあるべき位置に座ってくれたような気がする。
リアルタイムで長いあいだ追いかけた作品だから、それを読んだ当時の自分の年齢や生活の様子と全部リンクする。そんな作品は、この「つかまえてシリーズ」だけだから、これからも大切にしたいと思う。
秋野ひとみ先生、本当にありがとうございました。
私の少女期の諸々を救ってくれたのは、まちがいなくあなたが生み出した由香と左記子です。