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彼女とは違う道
自営嫁生活三年目。
適応障害には何の対処もできないままストレスフルな日々は何も変わらず。
それでもわたしは、建設業に関する資格取得の学習を始めた。
目の前にいる人たちを呪う時間をそのまま学習にあてることができれば、ひとつ突破口になるかもしれないと考えた。
「建設業経理士」という言葉に巡り合ったのは会計士のTさんがきっかけ。建設業には、「建設業経理士」という独自の経理士試験がある。
領収書や請求書を見ながらソフトに入力して帳簿を作成するという作業を与えられ、それが唯一の業務となっているが、勤務中に空いた時間があるなら経理資格取得の学習にあててみるのも一計だと思いついた。
舅姑に何か言われると面倒くさいので、できるだけ隠しながら進めた。
半年後に2級受験。合格した。
舅姑には一応、建設業経理士の2級に合格したことを報告した。
受験費用などは一銭も援助してくれなかったし、特にねぎらいの言葉もなかった。
建設業経理士2級の資格を取得し、それを経営事項審査の加点に利用したい舅姑からの申し出で、正社員に登用された。パート扱いだった給料が少し上がった。これは、この会社に入社して初めてうれしいと思った出来事だった。
1級の学習を引き続きやりながら、経理士としての実力をつけていこう、この会社ですることがようやくできた、と初めてひと息つけた心地がした。
それでも、ダメなのが家族経営の事業継承。
相変わらず姑は、総務や経理といった自分のテリトリーを譲る気配まったくなし。金庫と印鑑を握りしめ、元気いっぱい、毎日毎日、そこにいる。
ある日、わたしは悟った。
総務経理部門として、この人との交代、に重きを置いていたらわたしはずっと苦しいままなんだってこと。だって、譲って退く気が、姑にはないんだから。
ただ、そういうことにしないとわたしが入社してくれないから、その気もないのに言い訳に使っただけ。
だったらわたしは辞めたいけれど、今のところそれが難しいのならば、わたしは彼女とは違う道を行くほうがいい。
彼女ができない、しないことに活路を見出す。
まずは、パソコン関係だと見当をつける。
公共工事には、契約書に始まり施工中から完成まで、必要に応じて提出する書類が、無数にある。
パソコンが一切できない姑は、それを息子(わたしの夫)か、もうひとりいる技術者の社員に任せている。
自分自身はそれをチェックして印鑑を押すだけ。
それを重要な役目で自分にしかできないと酔いしれている。
これはわたしじゃないとね、とか言いながら捺している。
その書類作り、わたしがすればいいんじゃないか、とひらめいた。
なので、夫と、先輩社員に頼んで、それを教えてもらうことにした。