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あの日の絶望 69「黄昏の扉をあけてつかまえて」

秋野ひとみ「つかまえてシリーズ」全95タイトルを全巻レビューするのが目標。無作為に選び一冊ずつ順不同にいきます。

69作目「黄昏の扉をあけてつかまえて」2001年

つかまえてシリーズに時々ある、上下巻ではない連作もの。最初に依頼された事件を追ううちに、別の事件が起こる、はじめの事件を解決するために過去の事件を捜査する、など。

長い間行方不明で、失踪したと見られていた人物が遺体で見つかり由香がその死の真相にたどり着く。由香と圭二郎、左記子と圭一郎の二組に分かれて関係者に話をきき、それを総合して由香が推理する。つかまえて後期って、由香以外の人が全く推理しない。初期は由香の推理を信用しない人もいたし仲間同士で推理してたけど、他メンバーは情報収集に専念してる感じ。

この作品、この事件に特に強い印象も思い出もなくて、長いシリーズのうちの一冊、だと思ってた。これを書くためにもう一度読むまでは。

心が震えたシーンのページを、折っておく癖がある。文庫本に限るが、つかまえてシリーズだけではなく、数人、そうしてしまう好きな作家がいる。それは、いつかもう一度読み返す自分へのメッセージのつもり。ここで、ジンときたんだよ。涙が出たよ。いいな、と思ったよ。読み返す時の自分は、そのシーンを覚えていたり忘れていたりさまざまだが、過去の自分がこのシーンやセリフに心を震わせた、ということだけはわかる。

この作品に数か所、それがあった。それは、「絶望」についての登場人物のセリフだった。

「信じて、待ち続けますか。それとももう、そんな悲しい重荷は、おろしてしまうことにしましょうか」
「健気な笑顔の蔭で二度と立ち上がれないほど深く絶望していたのかもしれないと。どんなに絶望しても、生きていて欲しかったけれど、でも、葵さんがそこでみずから死を選んだからといって、俺には責めることなんかできなかった。苦しんで、苦しんで、苦しみぬいたひとが、その苦しみから、夢中で逃れようとしただけなんだ。そんなのは弱虫の選択だの、いずれいいことがあるからがんばればよかっただの、どういう顔をして言えるというんです」

当時の自分がどうしてここに折り目をつけたかは覚えていないけど、これを見つけると、何かに苦しんでいたんだなとわかる。詳細はわからないけど、あの日抱えてたものは今は一緒にいませんよ、だからそのうち大丈夫になりますよ、と過去の自分に返事する。つかまえてシリーズには、何かに深く傷ついた人間がたくさん出てくるので、こういうふうに、絶望や悲しみを抱えた登場人物の描写がけっこうある。

だからこそ、ただの少女小説では終わらず、大人になりながら読んできた自分の、心を惹き続けたのではないかと思っている。



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