
初サキサイド⑫「最後はキスでつかまえて」
秋野ひとみ「つかまえてシリーズ」全95タイトルを全巻レビュー。
無作為に選び一冊ずつ順不同にいきます。
12作目「最後はキスでつかまえて」1990年
初めて読んだときの、小学生だったわたしは、「小説の語り手」とはどういうものか、その違いによってどういうことが起こるのか。何もわからなかった。
今回は本が厚めだな。なんだかいつもよりサキの出番が多いな。
としか思わなかった。
長く続くシリーズ化していくための試みだったのかもしれないな。
この作品には左記子サイドが必要だということが今後生きてくる。
このシリーズは当初、主人公である由香の一人称「あたし」で事件のストーリーが進められるものだった。
12作目である、この「最後はキスでつかまえて」では、左記子が語り手をつとめた最初の作品。
その後、シリーズ途中から、「由香サイド」「サキサイド」にわかれて交互に展開するものに変わり、それが最終巻まで続いた。
章のはじまりには指差し姿の由香、左記子、可愛いアイコンがつけられこの章がどちらの目線で進むのかがわかるようになっている。
小林くんと左記子が放課後、二人でお茶する場面から。由香は別件で別行動。桜崎圭一郎さんが美女と密会するところを目撃し、盗み聞き。
美女は今回の依頼人。何者からか脅迫状が届き、不審なできごとも続くため桜崎さんに身辺警護を依頼してきた。圭一郎さんが依頼人と同行した、弁護士事務所で紅茶を飲んだ弁護士が二人の前で倒れ、亡くなってしまう。
砂糖壺に入っていた青酸カリが死因で、事務所に指紋が残っているなどの理由で圭一郎さんが容疑者とされる。
由香と左記子は、圭一郎さんの潔白を証明するために行動を開始。
左記子が事件当日に見かけた外国人が弁護士事務所の防犯カメラに写っているところから、接触を図って調査することに。三人で東京見物をする。
つかまえてらしい、にぎやかな調査が始まる。
左記子語りならではのことがいくつか。「圭二郎の出番がほとんどない」
「弘毅さんとのケンカの描写がやたら細かい」細かすぎる。
わたしはどうせ仲直りするケンカの描写はあまり好きではないので少しでいいのにな、なんて思ってしまうことがあった。
「(さんざん並べたあとで)~~というのはあたしの妄想で、そんなことがあるはずもなく」これはページ数をむだに増やす。
この本が厚めなのは、それも要因のひとつ。
「ト書きふうにいくわよ」これは左記子サイドの得意技。
登場人物が多いときや、その中の2,3人の会話をピックアップしたいときよく使われるのだけど、これはとても面白いので好き。
由香はしないことのひとつ。
この先定着していく二人の交互語りにつながると思うと感慨深い。