見出し画像

天使は誰だ ⑯「天使をつかまえて」

秋野ひとみ「つかまえてシリーズ」全95タイトルを全巻レビュー。
無作為に選び一冊ずつ、順不同にいきます。

16作目「天使をつかまえて」1991年

桜崎探偵事務所のクリスマスパーティ。
由香と左記子の、高2のクリスマス。この日は、そしてこの作品は「ある人の登場作」としてこの先大事な位置づけをされていく。
由香とその人にとってとても大事な思い出の一日として、何度も会話の中で振り返ることで大切にされることになる。

今回読み返してみて、その登場の仕方、その人物像のなんと新鮮であることかと驚く。無神経で強引。他人のことはおかまいなし。
その後もそういう性格で進んでいったはずなのに長い時間をかけて少しずつ、ワイルドで男らしくと、その良さがぐいっと前面に出て来て、一、二を争う人気キャラクターになった人。
菊地薫の初登場作。

圭一郎、圭二郎、小林くん、木暮さんなど、優しくていい人しか出て来なかった「つかまえて男性陣」において、初めて由香に失礼で傲慢で強引で横柄な態度をとる男の登場。

当時はこの人が、ここまでメインのポジションにつきそのままシリーズ最後まで重要性を増しながら存在感を強めていくとは予想していなかった。
その知力、勇気、腕力で名探偵由香を助け事件解決になくてはならないメンバーになるとは。
この16作目までに、すっかり圭二郎ファンになってしまっていた当時の私にとっては、こんな人由香に合わない、と邪魔者のように感じて今後出てこないといいのに、とまで考えた。
私、当時13歳。優しい人がいい、なんて王道しか知らない少女の考えたこと。

この作品のあとしばらくは、菊地さんは時々由香に電話をかけてきては話をし、都合があえばデートをする、由香がいうところの「つきあっているような、いないような」状態が続く。
一年後のクリスマスに、由香が自分が本当に好きなのは誰なのか気が付いて自分の心で認めるまでの間。
「断然圭二郎派」から徐々に脱落者があらわれ、菊地さんも素敵じゃん、なんて雰囲気が読者の間で高まりつつ…なんてムードが生まれたこと、あとがきを読んでいるとよくわかり楽しい。

天使をつかまえた一年後に雪が降った。
クリスマスをとても大事にするこのシリーズにおいて、菊地さんはとても重要な役割だったんだな。
報われる恋だけが美しいわけではないことを、思春期の私に教えてくれたもののひとつは間違いなく、このシリーズの登場人物たち。菊地さんは、その重要なひとり。
現在の私は、「菊地薫派」かも。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?