
その出会い ⑨ 「ダンスのあとでつかまえて」
秋野ひとみ「つかまえてシリーズ」全95タイトルを全巻レビュー。
無作為に選び一冊ずつ、順不同にいきます。
9作目 「ダンスのあとでつかまえて」1989年
もしも、このシリーズのもう一人の主人公とも言える、サキこと「左記子」というキャラクターが、9作目というごく初期の作品の段階で「高校時代にお見合いしてその相手と交際し、高校卒業と同時に結婚した」という設定になっていなかったら。
この「つかまえてシリーズ」はいったい、どうなっただろう。ファンとして想像してみると。
まず、左記子にも自分の本当の相手を見つけるための行動といった段階が描かれていくだろう。小林クンや真澄、皆川クンといった同級生男子から、事件で知り合った年上や年上のあれこれ。後半では律泉さん、速水さん。サキをとりまくにぎやかな場面がたくさん描かれたことだろう。
その反面、左記子に弘毅さんという決まった相手がいることから来る「つかまえて独自の落ち着き」は失ってしまう。
左記子を大人にした本当の恋が丸ごとなくなることの損失は、シリーズを通して考えるとものすごく大きいような気がする。
ということで、「その出会い」の分岐点となった
「ダンスのあとでつかまえて」
左記子のお見合いを、由香と小林クンが変装して見物することから事件に巻き込まれていく。
好きな人が選んだのが自分の親友だったら。
私には、親友と同じ人を好きになって苦しんだ経験はないけれど、恋愛が一対一でするものである以上、どちらかが選ばれるという結末だってあることはよく知っている。
この巻では、シリーズ当初から続いていた由香と左記子と小林クンの三角関係にひとまずの決着がつく。
小林クンは、由香ではなくその親友である左記子を好きだと由香に告げた。そのときの左記子にはすでに新しい出会いがあって、小林くんのそれは遅すぎる気づきになってしまったけれど。
ふられた後の帰り道、どうやって帰ったか記憶にない
って、本当に、本当に、本当に、そうだよね。
どんな複雑な帰り道も、全然覚えてない。これは数回経験があります。
ふられた直後の人間って、何を考えながら足を動かして帰路についているんだろうか。
この作品には、もうひとつ恋物語が。
久しぶりに再会した山野蓉子さん。
彼女は由香に、圭二郎さんがしてくれたシンデレラの話を教えてくれる。
魔法使いのおばあさんがシンデレラに使った魔法は、ただひとつ。シンデレラに素敵なドレスを作ってあげたことも、カボチャの馬車で迎えにきてくれたことも、たいした魔法じゃないのよ。ほんとの魔法はただひとつ。ダンスを踊ったあと、シンデレラにガラスの靴を落としていかせたことだけ…。
ダンスを踊る時間があったから、ガラスの靴を落としていくことで王子様がシンデレラを探してくれた。
「ダンスのあとでつかまえて」
ダンスを踊るチャンスがあるかどうか、それが恋にはとても大事なこと。
思春期初恋時代の当時の私の心に刺さりまくりでした。