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シリーズの象徴 ⑦「ペーパームーンでつかまえて」

秋野ひとみ「つかまえてシリーズ」全95タイトルを全巻レビュー。
無作為に選び一冊ずつ順不同にいきます。 

7作目「ペーパームーンでつかまえて」1989年

「あのペーパームーン事件で」「ペーパームーンをきっかけに」など、その後もアイコンのように使われることになる、シリーズの象徴ともいえるこの作品。

由香サキ小林くんに加えて真澄や可奈子。
桜崎兄弟に神也警部。
銀ねずみの再登場に、何と言っても蓉子さんの初登場。
「不思議の国のアリス」をモチーフにして展開する事件。
冒頭で由香と小林くんが学校図書室の「不思議の国のアリス」の書架の前で待ち合わせる放課後デート。
門の前で二人を待ち構えていた左記子のことをチェシャ猫に例える。
事件の舞台となる遊園地では時計を持ったうさぎが現れる。

上下巻だからということもあり、本題に入るまでが長い。
由香と小林くんのドキドキシーンとか、意味ないから今更みたくはないんだけど(それは読み返しだから)真澄くんと左記子のことは今となっては「通過点」としか思えないが当時は真澄を必死で好きな左記子に感情移入していたことを覚えている。
真澄にすがるサキを由香は見たくないというシーンはとてもいい。

由香や左記子に接触してきた依頼人の正体がわかって、遊園地に集合するまでにほとんど上巻一冊分かかってる。由香が危ない、で下巻に続く。

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下巻

由香の危機に圭二郎が現れることから始まる下巻。

ようやく解放され日常が戻ってきた由香とサキ。
クラスメイトの皆川くんがサキを好きだと告白してくる。
皆川くん、初期はそんな重要な存在だったことをこの読み返しまで忘れてた。そして真澄のことをサキがこれからも好きでいるつもり、と心の整理をつけるのに一役買う。
かなわない恋をすることが心の成長につながる年代ってある。
それを知っているか知らないかで、大人になったときに女性としての格に差が出ると言ってもいいくらい。左記子、憧れました。

そして蓉子さんの登場。
シリーズを通して報われない片思いのアイコンとなる彼女。
時々登場して、圭二郎さんへの思いをひとりごちる姿そのセリフ。
読みながらよく泣いてました。

銀ネズミ・蓉子さんと対峙し、勝利をおさめて大団円。

何回読んでも、これ「何の事件」を解決したのかわからない。
ほとんどが抽象的。事件そのものの印象は何も残らないところまで秋野先生がわかっててこの上下巻を作ったならそれは、三十年経ったいま、成功してると思う。この作品ひとつがとても面白いわけではないのにこの存在感。

定価370円(本体359円)だって。
三十年前の自分、こんにちは。お父さんに買ってもらったもんね、これ。
まだ持ってて最近読んだよって、今度会ったら言ってみよう。

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