ライン・オブ・デューティ 汚職特捜班
Line Of Duty(イギリス/2012~)
NK細胞を増やしたいこの時期、重いもの、暗いもの、残酷なものは避けたい。このドラマ、絶対後味悪い、絶対にバッドエンドに違いない――
それなのに、やめられない!!
そんなドラマが、この「ライン・オブ・デューティ」です。
見慣れた刑事ドラマを見る視点で見始めると、誰もが驚くはずです。
「何だこれは!?」
聖職者であるはずの警察官達が日常的に様々な罪を犯して生活しています。
軽い違反は日常茶飯事。
けれども、生活ってある意味そんなものかもしれません。
黒と白を行き来しながら、あるいはその境界で、人間は生きていくものです。
このドラマの警官達は、違法であってもおいしい話があれば乗り、昇進が欲しくて上司におもねり、友人の夫と不倫し、時に同僚を裏切ります。
これまでフィクションが描かなかった、そんな境界を、このドラマはつまびらかに抉っていきます。
ハリウッドドラマのような派手なサービスシーンは一切ありません。
ひたすら、対話、視線のからまりあい、腹の探り合いが続きます。
あらすじを聞いただけでは、一体どこに面白さがあるのかわからない(笑)
けれども、文句なく、面白いです。
わざと不安定なカメラ、俳優の名演技、練り込まれた脚本、構成、演出。
あまりにもよく作り込まれているので、まるでそんなに親しくはない顔見知りの人々の生活を覗き見している、というような気分にさせられます。
特に素晴らしいのが、シーズン2。
デントン役のキーリー・ホーズに目が釘付けです。
社交性が無く、刺々しい態度で、コミニュケーションをとろうという努力も見られない。
同僚の不正を容赦なく追求するので、署内では嫌われ者。
事故に巻き込まれて負傷しても、署内の皆がデントンをリンチし、上司もそれを容認する有様。
数々の仕打ちに、じっと貝のように耐えているように見えますが、積もり積もった怒りは、突然爆発します。
気が済んでしまうと、再び、貝のように心を閉ざし、自分の罪も、平然と隠蔽します。
そう、つまり、すごく嫌な人!!
物語は彼女が悪事の黒幕では?と進んでいきます。見ている側も、すんなり納得します。
が、そこで終わらないのがこのドラマ。
頭脳明晰で鋭い切れ味を持ちながら、愛した男の嘘にあっさり騙され、老いた母親を気遣い、猫をいとおしむ。
ピアノの音色に慰めを見出そうとして、孤独な夜に一人、号泣する。
鼻持ちならない人物であったはずのデントンの内面が明かされるうちに、視聴者は迷いはじめます。
何より、彼女は警官としてはとても優秀で正義感も持ち合わせていたのです。
彼女は確かに嫌な奴。小さな悪事は繰り返しているだろう。けれども、周到に計画し、無残な事件を引き起こすような人間なのだろうか――?
スティーブはAC-12のエースですが、とにかく常に女性問題を抱えています。そしてモテまくり。
そう書くと、どんなにゴージャスなイケメンかと思われるかもしれませんが、彼は美男ではありません(笑)
小柄で素朴な容姿。こぶ平(林家正蔵)さんや月亭方正さん系列の雰囲気といった感じ。
そんな彼が「アメリカン・ジゴロ」のリチャード・ギアのような立ち居振る舞いで、女性をどんどん口説いていくのです。(脳内でコール・ミーが自動再生)
頑なだったデントンも、次第にスティーブに心を開き、最後にはすがるような視線を向けるまでになってしまいます。
涙をこらえながら、スティーブの手を握るデントン、自宅に招いてスティーブに酒をすすめるデントン、熱くなっていくふたりの場面で、
どういうわけかまたしても脳内で「こぶ平コール」と「コール・ミー」が沸き起こって閉口しました(笑)
物語は二転三転しながら、怒涛の勢いでラストへ――
うっかり夜に視聴してしまうと、徹夜ドラマになってしまう、やめられないとまらない、おっかない名作です。