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コミュニケーションとしての読書―190120ヒューマンライブラリー

子どもの頃から読書が好きでした。

でも、幼いころは、読書が趣味であることがコンプレックスでした。
(好きな遊びを訊かれて、ドッジボール、なんて外遊びの名前を答える子どもに対して、閉じこもって本を読むのが好きなんて陰気な“コミュ障”だ、そんなレッテルを貼られる雰囲気、ありませんでしたか。)

今では、この考えは間違いであったと思います。
読書は、著者の思想や感情や人生に深く沈み込むこと。
一見孤独な時間に見える読書という行為は、実は濃密な他者とのコミュニケーションの営みであることが、今なら分かるからです。


1/20(日)池袋のみらい館大明ブックカフェで行われた第3回ヒューマンライブラリー(主催:豊島区・NPO法人いけぶくろ大明)に参加してきました。

人を本に見立てて「貸し出す」という形式で、来場者と対話を行うヒューマンライブラリー。多様性理解促進のための教育プログラムとしても活用されているそう。
司書役はSEX and the LIVE!!のアクティビストでA-live connect代表の卜沢彩子さん。
一人ひとりの「本」たちを大切にピックアップしお薦めしてくれる、ヒューマニズムの滲む司書ぶりで「読書」への期待が高まる仕掛けです。

会場のみらい館大明ブックカフェは、閉校になった小学校の図書室を、しつらいもそのままにカフェとして開放しているところ。
純文学から教養書、漫画に至るまで、沢山の本で埋められたその場所の空気は、まさに子どもの頃のささやかな隠れ家─書架の間に身を沈めるとき、いつもより少しだけ深く息ができた─であった小学校の図書室そのもの。
たちまち、頑是なく心許ない子どもの心情に戻されてしまった私は、浮き足立った気持ちも隠せず「貸出カウンター」に向かいます。

今回の会場には10人(冊)もの「本」が並び、参加者はその「あらすじ」を片手に、読みたい、話したい人を選び、その人のもとに集まっていく形式。こんな風に、話したい人、聞きたい話を「選ぶ」ことができるのは、日常ではまずありえないこと。どのあらすじも聞いたことがないほどユニークで心惹かれるものばかり。まさに、図書館の書架の前でうきうきと目移りする気分そのままに、3人の「本」のお話を順繰りに聞かせていただきました。

今まで全く知らなかったコミュニティの当事者の話を聞いてまわれることは、参加者としては勿論とても面白い。一方で私は、登壇している「本」たちの動機が知りたい、と思っていました。その人はどうして、あえて「本」として読まれたいと思い、見ず知らずの他者との語りの矢面に立つのか? 
——複数の「本」の方が、ヒューマンライブラリーへの参加に至った経緯として、分かり合える人との出会いと繋がりの重要さに気付いた経験を語ってくれました。
自分の立場を分かってくれ、ひとりではないと思え、決して否定されない場所を持てて初めて、人はありのままの自分を生きることができるようになる。そして次の段階として、自分の存在を知らせ、人と繋がるために、自ら語り、外に開いているのだと思う。そんな言葉を聞くことができました。

自分自身の物語のページを他者に開くこと、それはきっと、「本」自身が生きやすい場所を自ら開拓するプロセスなのだ。そう、すっと胸に落ちる心地がしました。

ある「本」の方のお話。
自分の抱える問題は、他人から見ればちっぽけな悩みに思われることなのかもしれない。けれどそれは自分の内面にとって、これまでの人生の全てに関わる、あまりにも根深くナーバスな課題なのだ。他人に不躾に触れられれば痛むし、逆に温かい理解とケアを受けられたなら、人生を支える基盤にもなる。

こんな話を聞いているうち、これは誰にでもあり得るものだ、と思い至りました。

特別キャッチーなハッシュタグにはならないかもしれない。けれど、誰の心の内にもきっと、他者に不用意に踏み込まれたくない領域がある。世に流布する「当たり前」に当てはまらない部分、その人にしかない感情の琴線というものがある。

だから私たちは他者に向かうとき、無作法であってはならない。遠慮がちで不安な手つきで探り探りしながら、唯一無二の相手のかたちを知ってゆく。対話の言葉はそのためにあるものだし、それこそが「人を知る」コミュニケーションの愉しみそのものであるはずだ。

「本」だけではない、私自身も、ここにいる参加者一人ひとりも、全てがそんな存在なのだ。誰もがきっと、固有の苦悩や痛みや葛藤を持ち、それぞれの大切なものを胸に抱いて生きている。

そんな感傷に駆られながらごった返す会場を見回すと、目に映る人々が皆驚くべき魅力的な存在に思えてくるのでした。私たちは一人ひとり、何て唯一で、風変わりで可笑しくて、愛おしいのだろう。
とても単純な人間への愛着が、ひたひたと蘇ってくるのが分かりました。
もっと読みたい、もっと出会いたい。閉館のアナウンスがうらめしくてなりませんでした。

私たちはみな、たった一つの物語を生きる一冊の本なのです。
人生という大切な物語のページを、一つひとつと紐解くことができる特別な空間。
読むほどに、聞くほどに人を知りたくなる、36℃のぬくみを帯びた不思議な図書館。それがヒューマンライブラリーでした。

かけがえのない次の一冊との出会いを求めて、また来館したいと思います。

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