人には意外な好きがある
専ら、強い気持ちで誰か芸能人を好きという感覚を持つことがなかった私に、突然好きな女優さんが現れたのは小学校を卒業する頃だっただろうか。
今でもひそかに応援している、松たか子さんである。
当時小・中学生だった私は、いつの間にか彼女のことが好きになっていた。
しかし、私たちの年代にとって、当時「松たか子さんが好き!」という子は正直いなかった。
そんな中、公言し続けたのが私である。
同級生や、昔はやった私のプロフィール手帳的なモノによく質問される「好きな芸能人は?」の質問。
あまり誰にも刺さらないだろうなと思いつつも、私はずっと松たか子さんと言い続けてきた。
だからこそ、アナと雪の女王で彼女の歌声がヒットした時には、こっそりとガッツポーズをしたものである。
時代がついに来たと思った。
さて、それほどまでに松たか子さんが好きと言い続けてきた私である。
当然初めて買ったCDは「明日、春がきたら」。
何度も聞いて、何度も歌ってきた曲だ。
先日、両親と一緒に久しぶりにカラオケをしたら、歌って欲しいとリクエストをもらい久しぶりに歌った。
大層懐かしく思ったようで、大絶賛してもらった。
私の両親は時に親馬鹿が過ぎるので、娘の私を異常にできた娘だと思っており、過剰に褒めてくれるときがある。
ただし、孫の前でも同じテンションで褒めるので、恥ずかしい思いをすることもある。
「初めてこの歌をちひろが歌ってくれたときには、なんて歌の上手な子なんだろうと感動した」などと、孫がいようと本気で言うのである。
どうか口を閉じて大人しく聞いていてもらいたい。
話は横道に逸れるが、両親が口を揃えて我が子達に「ママには困ったところがなくて、本当にできた子だった」などと吹聴するので、後になって子ども達から聞かされ、困ってしまうことがある。
何か手を焼いたこともあったと思いますよ、私にも。
褒められすぎるのも、時に怖い。
その後もレンタルでシングル曲をMDに録音して聞き、アルバムは欠かさず購入していたが、それも10年前くらいまでのこと。
今となっては懐かしいなとただ思う。
もうレンタルすることも、何かに録音することもなくなってしまった。
初めて買ったCDは……のお題を考えると共に、ふと過った事がある。
きっと子ども達には、「初めての……」と言えるような、思い入れのある曲があるのだろうか。
買ったからこそ思い入れが強く残っているが、サブスクであれもこれも聞いている現代っ子は、果たして未来に「初めての……」を思い出すことがあるのだろうか?
そう考えると、少し寂しい気がしなくもない。
余談。
官庁での面接で「うちにはキムタクはいませんよ。大丈夫ですか?」と質問された。
私は、口にこそ出さなかったが「いえ、松たか子さんが好きなので……」と心の中で回答したものである。
別に木村拓哉さんに罪はないが、キムタクファンばかりが面接に来ているわけではないと言いたい気持ちになった。
松たか子さんのファンだっていることを、ぜひ知ってもらいたい。