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産後センチメンタル。


生まれたばかりの赤ちゃんと、母子同室になる。

オムツの替え方や、ミルクのタイミング、抱っこの仕方を助産師さんに教えてもらう。
コロナで妊婦教室も中止になっていたし、出産前は出産のことで頭がいっぱいで、産まれた後のことについて全然頭が回っていなかった。


助産師さんが部屋から出て、初めて赤ちゃんと二人きりになる。
赤ちゃんを抱っこして観察する。
小さくてかわいい赤ちゃんが、時々片方だけ目を開けている。まだ目を開くことさえ、難しいのだろう。いつまででも見つめていられるくらい、とにかくかわいい。


一通り見つめてからふと思う。


...目を離していいのか?

今考えるとばからしいけど、本気で目を離していいのかすらわからなかった。
とりあえず、赤ちゃんが静かに寝てたら私も寝てもいい...?泣いたら抱っこすればいい...?
何から何までわからない。



はじめての授乳。
母乳育児なんて、自然とできるものなのだろうと思っていたけど、そういうわけではなかった。
母乳を飲む赤ちゃんも初心者、あげるママも初心者。お互いが下手くそだ。

泣く赤ちゃん、うまくできなくて汗だくの私、熱血指導の助産師さんのトライアングルではじまる、授乳チャレンジ。
いろんな体勢でチャレンジしてみるが何回やってもうまくできず、赤ちゃんはずっと泣き続けた。


助産師さんは一生懸命教えてくれたのだけれど、泣いている赤ちゃんを目の当たりにすると、なんだか悪いことをしているようで、赤ちゃんがかわいそうに思えてきて、精神がえぐられる。
授乳の度にどっと疲れてしまう。


3時間おきに授乳をするのに、一回の授乳に1時間近くかかる。
オムツを替えたり泣く赤ちゃんを抱っこしてあやしたりしていると、すぐにまた授乳の時間が近づいてくる。
授乳がうまくできないかもしれないからミルクや搾乳の準備も必要だ。

なんやかんやで寝る時間がない。
赤ちゃんとの生活は寝れないと聞いていたけれど、こんなに寝れないとは。



夜中に、ふと悲しい気分がウワッと湧き出てきて、泣けてきた。

遠くて全く知らない別の世界に、ポツンとひとり、私だけがいきなり来てしまったような感覚があり、怖くなった。

それでも、母としての生活はもうスタートしている。後戻りはできない。


赤ちゃんという、援助なしでは生きられない弱い存在を前にして、これから先何年も、私が、私の意志だけで、動くことはできないんだという事実が急に現実味を帯びてきて、恐ろしくなる。


お腹で赤ちゃんを10ヶ月も育てていたから、こうなることは覚悟していたはずなのに、こんな気持ちになるなんて......。
ここまできて、弱気になる自分に罪悪感さえ感じる。


兎にも角にも、この子の命は私にかかっている。
頑張らなきゃいけない。しっかりせねば。


そう思いながら、しくしく泣いた。



産後の複雑な感情は、よく、ホルモンのせいだと言われるけれど、“ホルモンのせい”と、一言で片付けて欲しくないなあと、わたしは思う。

産後の身体のダメージ、待ったなしで始まる慣れない育児、寝不足、家族の援助の有無、理想と現実のギャップ、様々な要因によるものだろう。



私が経験した産後の出来事は、状況の違いはあれどきっともれなく先輩ママたちが経験してきたことなのだろうと思うと、そのひとりひとりの頑張りや葛藤に、長い長い夜に、思いを馳せずにはいられない。

そして、こうしている今も、もしかしたらひとりでシクシク泣いている新米ママがいるのかもしれない。

全母に敬意を表したいと、思う。




妊娠出産〜育休明けまでを振り返り、綴っています。
時系列にまとめた、マガジンはこちら。



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