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人は小さな点からはじまる。


結婚してから2年半。
子どもは、なかなかできなかった。

毎日起きてすぐに基礎体温を測り、葉酸サプリも飲んだ。妊娠するために控えた方が良さそうなものは、控えた。
お酒は普段からあまり飲まなかったので楽に控えることができたが、毎日飲むのが日課になっていた、大好きなコーヒーを控えるのはちょっと切なかった。

婦人科にも通いはじめた。
夫と二人で不妊治療の流れについて説明をうけ、まずは各々検査を受ける。
「もし、異常があるとすれば早めに治療するに越したことはない」と思っていたし、「とにかく淡々と、やるべきことをやるしかないんだ。」という意識でいたから、検査を受けることに抵抗はなかったけれど、やっぱり結果を聞くのは怖かった。
検査結果は異常なしで、夫とわたしはひとまず安堵した。
緊張から解放されたらどっと疲れがやってきて、家でごはんを作る気になれず、その日のごはんは外食で済ませた。



不妊治療はタイミング法から始まった。
タイミング法は不妊治療の中でも初期の初期。
何ヶ月か病院には通ったけれど、授かることはできなかった。
そうなると次のステップ(人工授精)がみえてくるのだが、ちょうどそのとき私が仕事で職種を転換したこともあって、気持ちに余裕がなく、ステップアップはもう少し待つことにした。



妊活をはじめてから、毎月生理がくるたびにショックを受け、もうずっと妊娠できないんじゃないかという不安が押し寄せていた。


その不安がとても苦しく、子どもがいない人生も、視野に入れようと考え始めた。
子どもがいなくても素敵に生きている人はたくさんいるし、きっと人生はトレードオフで、子どもがいたらいたで失う機会だってある。


不妊治療初期でもくらうダメージがあるのだから、長く不妊治療を続けている人は、どれだけ精神的なダメージをうけているのだろう、と想像するだけで胸が痛む。どうか、望む人のところに赤ちゃんがきてくれますように。


仕事も落ちつき、そろそろ不妊治療を再開しようかと考えていた矢先に、身体の異変を感じた。
なんともいえない、体が熱を持った感覚。生焼けの魚になったみたいな気持ち悪さ。
妊娠検査薬は陽性だった。

ずっと夢みていた妊娠だったから、妊娠検査薬の陽性の反応を見て歓喜するのだろうと思ってたけれど、素直に喜ぶことができなかった。

SNSで不妊治療や妊活についての情報をたくさん見ていたからか、陽性でも心拍が確認できない場合があることを知っていた。
「ここで喜んでしまったら、万が一のときのショックは大きいぞ。」と思って、心を落ち着かせた。

病院にいって心拍確認ができて、喜びが溢れた。
けれど、それと同時に不安も感じた。
心臓と言われた小さな点が、微妙に動いていた。
その点があまりに儚く感じた。
いつ止まってもおかしくないと思った。

妊婦健診は毎回、祈るような気持ちだった。
妊娠初期は1ヶ月に1度しか妊婦健診がなく、胎動もまだ感じられないから、お腹の中でちゃんと生きているのか、あの儚い心臓は動いているのか、とにかく心配だった。
妊婦健診が終わる度に「生きてた!」「よかった!」と夫に連絡した。


とにかく不安と心配に溢れていた妊活から妊娠初期までだったけど、この時に感じた気持ちは一生忘れたくない。

「生きる」ということが、どれだけ奇跡であるのか、命を授かること、心臓が動き続けるということがどれだけありがたいことなのか、身に染みて感じた。

自分の意思とは関係なく命は宿り、心臓は動く。
普段気にしたことはないけれど、わたしの心臓だってきっとあの小さな点から始まり、もう30年以上、一度も止まらずに動いている。
そのことにも深く感動した。





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