あなたへ吐く季節の色
10月18日
拝啓、あなたへ。
自分の人生を遡ったとき、必ずそこに見えたのはあなたでした。
自分の頭の片隅には必ずあなたがいて、あなたという存在はいつも自分を照らしてくれました。
ひどく落ち込んでしまったときにあなたが言った、味方という三文字はどこまでも自分の中に響き、心を落ち着かせました。
春になるとあなたは決まって花の話を始めましたね。あなたは花が好きでした。
花は全てが生まれ変わった一つの証だと思うとあなたは自分に問いかけてくれました。その問いは今でも心に残っています。
自分は春が苦手だと話すとあなたはどこか落ち込んだ様子でした。悪いことをしたなとその時は思いましたが次の瞬間、あなたは伝えてくれてありがとうと微笑んでくれましたね。自分はそれにほっとしたのを覚えています。
次は夏の話をしましたよね。
コンクリートはどこまでも熱されて、向こうの境界線はまるで視力が悪い人が見る光景のように滲んでいました。
自分は夏が好きだとあなたに言いました。
あなたは意外そうな顔をしましたね、今でも覚えています。
自分は肌が弱いから夏はあまり外には出られないけれどこの暑さと乾ききった風は自分を喜ばせました。
そのことをあなたに伝えると、またあなたは優しく微笑みながら自分に、わかるかもと言いました。覚えていますか?
自分にしか無かった考えがあなたと共有できたとき、自分は甚く感動したんです。
秋は自分の誕生月が含まれていますから、あなたはどこかそわそわして嬉しそうでしたね。
生まれてきてくれてありがとうなんて言葉は自分にはとてももったいなくて、両腕から溢れ落ちそうなほどに感慨に耽りました。
産まれ落ちたそのとき、自分は泣いたでしょう。産声と呼ばれるそれは悲哀でしかないと考えていました。産まれ落ちたそのときに死にたいと叫んでいたのではないかと自分は考えていました。
そんな考えを持つ自分に、あなたは生まれてきてくれてありがとうと言ってくれました。
冬になると毎回、あなたは分厚く重ね着をしていましたね。寒がりなのは知っていたけれど。
あなたと自分は冬が好きでしたね。
覚えていますか?真冬の夜中に二人、厚く重ね着をして、魔法瓶に温かいお茶をいれて、近くの雪が降り積もる公園にビニールシートを敷いてたくさん話をしましたね。
あのときに話した内容は今でも鮮明に覚えています。
そのとき自分は、あなたの幸せを願うばかりでした。
この機会だから言おうと思います。
生まれてきてくれてありがとう。
10月21日
拝啓、君へ。
お手紙ありがとう。とても嬉しかった。
季節の話、よく覚えています。
冬のピクニック、たのしかったね。
君はいつも私に、寒くない?って言って心配してくれたね。
私が寒がりなの知ってたんだ。なんだか嬉しいな。
私は君みたいにたくさん文章が書けないし、言葉も知らないから短くなるかもだけどごめんね。でも一生懸命書くからね。
私が君との思い出で一番思い出に残ってるのは君が風邪をひいたとき。こんなこと言うと不謹慎かもしれないけど。
君は体が弱いからすぐに風邪をひくよね。そのたびに私は君のところに行って一緒にお話をしたよね。風邪をひいてるときってさ、やっぱり寂しいものだから一緒にいてあげたいなって思ったんだ。君はやっぱり、うつるから良くないって心配してくれた。当たり前のことだけどそれをしっかり伝えられる君はやっぱり優しいなって思う。
生まれてきてくれてありがとうなんて言葉、私には大事すぎて全部受け止められるかわからないけどありがとう。
あらためて、君へ。
お誕生日おめでとう。
そして生まれてきてくれてありがとう。