持続可能な医療体制に向け、薬剤師の処方権・零売の議論を
「質が高く、効果的で、持続可能な医療制度」は、いずれの国においても達成すべき目標であり、日本も例外ではありません。
近年、多くの国において軽微な症状・疾患に対する「薬剤師の処方権」がトレンドになっています。主な理由として、広く国民に対し質の高い医療を提供する上で薬剤師が適格であること、公的医療費の膨張を防ぐために有効な方策であること、医師のマンパワーを有効に活用できること、患者の権利(適切な医療介入や助言を受けられること、診察では医師と十分なコミュニケーションが取れること)の尊重に繋がるといったメリットが挙げられます。
現在、厚生労働省会議において「零売」を規制するための議論が進んでいますが、上記のような医療体制の全体像が考慮されておらず、不適切です。
持続可能で実効性の高い医療制度を構築するため、薬剤師の処方権・零売について前向きな議論を求めます。
医療のフリーアクセスか、それとも市販類似薬の安売りか
日本に限らず多くの国において、税金もしくは強制加入の保険によって医療財源が賄われています。日本の医療制度の特徴は主として「フリーアクセス」と「出来高制の診療報酬制度」にありますが、この特徴のために、医療機関にとっては「市販類似薬を保険を使って安く提供することで集患し、診療報酬を得る」、患者にとっては「受診することで湿布や保湿剤などが安く入手できる」というモラルハザードが生じ、医療財源の浪費に繋がっています。
患者の権利と医師のマンパワー
医療のフリーアクセスには、気軽に病院・クリニックを受診できるというメリットがある一方、「3分診療」などと呼ばれる診察時間の短さ・患者と医師とのコミュニケーションの不十分さといったデメリットが伴います。
患者の権利として、また適切な診断・治療のためにも、十分な診察時間とコミュニケーションは重要です。高血圧・糖尿病・心臓病など複数の疾患を持つ患者が年に4~5回受診し合計10分ほどの診察時間、といった事例も珍しくありません。それでは十分とはいえません。
一人当たりの短い診察時間にも関わらず、勤務医を中心に多くの医師が労働基準法が定める水準以上の過酷な労働環境にあります。十分な改善のメドも立っておらず、各医療職能が担う業務を見直す必要があります。
零売の規制に前のめりな厚労省会議
「零売薬局」などで知られる「処方箋医薬品以外の医薬品」を販売する行為について、現在厚生労働省において会議が設置され議論が進められています。
現状、ほとんどの会議委員が零売の規制を求めており、カテゴリー自体をなくすべきといった意見まで出ています。従来の医師・薬剤師のパワーバランスや利益分配を変えないという意味では合理的でも、上で述べた「医療体制の全体像」が全く考慮されておらず、極めて不適切です。先進諸国の趨勢にも逆行した議論であり、将来の日本の医療にとって大きな禍根を残すことになります。
持続可能で実効性の高い医療制度を構築するため、零売を活用するための前向きな議論を求めます。
