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ホシヲキクモノ【全9話】 4.アーテムウイルス

   20××年 地球

 それはある日突然だった。

 原因不明の病気が地球上に現れた。

 最初は軽い病気だと誰もが考えていた。

 感染しても症状の出ない者もいたからだ。軽い風邪のような症状で済んでしまうものも多く、特に気に留める者はいなかった。

 しかし、それは間違いであることが次第に明らかになってきた。

 感染すると症状は人によって様々で、内臓疾患に現れる者、呼吸器をやられる者、さらには軽い症状から突然重症化して死亡する者も多数現れるようになった。一番厄介だったのは、全く症状が出ない者が知らずに他の人にうつしてしまうことだった。

 やがて、この病気は短期間で世界中にあっという間に広がった。世界中の人々がこの原因不明の病気に恐れ、震えあがった。呼吸の仕方が短く早くなる特徴があることと、発見された国の名前から、この病気は「アーテムウイルス」と名付けられた。

 このアーテムウイルスは発生源も含め、謎に満ちた病気だった。不明なことも多かったが、唯一解明されたことは、人と人が接触すると感染するということだったため、世界中の人々が人との接触を避けて生活するようになった。様々な方法が試されたが、それ以外に広がりを抑える手段が見つからなかったからだ。

 多くの人々が引きこもり、家から出ることなく、むやみに物理的な移動を控えるようになった。世界中を飛び回っていた飛行機や線路を走り回っていた電車はまるでおもちゃのように整然と格納庫に並べられ、自宅で仕事する者ばかりとなり、通勤する者も少なくなり、町からは人と車の姿が消えた。

 人の動きには国家単位で制限がかけられ、経済活動はみるみる落ち込んでいった。物は売れなくなり、無人の工場は稼働を待つだけの状態になった。この病気の流行は、今までの地球上の人類の考え方を覆し、生活様式を一変させてしまった。

 街は静寂に包まれ、普段は賑わう広場も人影が消えた。空は澄み渡り、いつもは見えない星々が夜空に輝いていた。人々は家の中で家族と過ごす時間が増えた一方で、孤独と不安に苛まれる者も少なくなかった。誰もがこの新たな現実に適応しようと懸命だったが、未来は不透明なままだった。

 科学者たちは一刻も早くワクチンを開発しようと、昼夜を問わず研究を続けた。

 医療従事者は危険を顧みず、最前線で戦い続けた。

 すべての人々が、それぞれの場所で、できる限りのことをして、この危機を乗り越えようとしていた。

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