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ホシヲキクモノ【全9話】 3. 地球(テラ)

 その後もスターライト・セントリー号は順調に多くの星々を支援し、救済し続けた。数々の成功とともに、彼らは宇宙の様々な星雲を巡り、その名声は宇宙全体で広まりつつあった。
 やがて、彼らの旅は太陽系へと入った。海王星を抜けた頃、リタが突然、ある星に呼ばれたとクルーに告げた。

「ひとつの星の声が聞こえます。私と話がしたいと言っています」
 リタが告げると、キャプテン・ゼノはその座標をスキャンした。モニターに映し出されたその星は、宇宙の闇の中で蒼く輝き、クルー全員が息を呑むほどの美しさだった。

「あの星ですね。リタ、早速あの星の声を聴いてください」

ゼノが指示を出す。

  リタは深呼吸をし、目を閉じて静かに耳を澄ませた。彼の体からは微かな波動が放たれ、その波動が星の声を捉えるように感じ取っていた。しばらくすると、リタの顔には困惑の色が浮かび、瞼の奥で眉をひそめた。

「苦しがっているようです」とリタが告げた。

「一体なぜ苦しいのだろう。詳しく理由を聴いてほしい」

 ゼノが促すと、リタはさらに集中し、感覚を研ぎ澄ませた。彼の体が再び微細な振動を始め、その振動は徐々に強まっていった。

  リタの額に汗が滲み、彼の意識は星の深奥へと潜り込んでいく。星の内部から伝わる感覚は混沌としており、断片的な情報が彼の心に響いてきた。リタはその断片を一つ一つ繋ぎ合わせるようにして、星の声を理解しようと努めた。

「この星の言語も未知のもので、私の感覚で捉えるなら……『私の身体全体にウイルスが広がっていて、私を傷つけている。とても苦しい』と聞こえます」
 リタは眉をひそめながら答えた。

  ゼノは真剣な表情でリタを見つめ、「ウイルス……?何か対策を考えなければならないな」とつぶやいた。

  リタは静かに息を整え、目を開けた。

「星そのものが苦しんでいるのは確かです。この苦痛を取り除くために、何らかの手立てが必要です」

  ゼノは頷き、船のクルーたちに指示を出し始めた。

「すぐに調査チームを編成し、この星のウイルスに対する対策を考えよう。リタ、引き続き星の声を聴いてくれ」

  リタは再び瞑想に入り、星との対話を続けた。彼の使命は、この星の苦しみを理解し、その解決策を見つけることだった。

 「この星についてのデータをモニターに示せ」

 リタが瞑想に入っている間に、ゼノはクルーが迅速にデータを集め、モニターに表示させた。

 「リタのいう星は『地球』(テラ)と呼ばれる星です。太陽系と呼ばれるこの周辺では唯一生物が存在している星です」
 
 部下の報告にキャプテン・ゼノはデータを眺めながら、記憶を辿るように言った。
 
 「この星には覚えがある。私が個人的に蒼くて美しいと見て心を動かされた星だ。星の文明はそれほど発展していないが、各生物が共存しバランスをうまく保ちながら暮らす平和な星だったではないか。我々がちょっと目を離した隙に一体何が起こったというのか。簡単でいい、調べてくれ」

 しばらくすると、分析結果が送られてきた。
 「はい。新種の生命体が発生し、大変なスピードで増殖したようです。星の生態系を脅かし、そのため様々なトラブルが起きているようです」
 「なんだと。それは、戦争目的か何かで意図されて作られた生命体なのか?」
 ゼノは鋭く問い詰める。

「いいえ、遺伝子構造的に分析した結果、自然に生まれた生命のようです」
 クルーの一員である科学者が答えた。

「ふむ。自然発生した生命ならば、それは星の運命といえる。それならばユニバーサルガーディアンズが関与してはならないな。星の問題としてとらえよう。リタが聴いてくれた声は気になるが、しばらく付近で様子を見よう」
 ゼノは冷静に判断を下した。

「かしこまりました」
 クルーは答え、スターライト・セントリー号はしばらくの間、地球の周辺でその様子を観察することにした。クルーたちは星の苦しみを感じつつも、慎重にその次の行動を見定めることにした。リタは再び瞑想に入り、星の声をもっと詳しく聴き取ろうと努力を続けた。

 スターライト・セントリー号は静かに宇宙空間に浮かびながら、地球の声を聴き、その未来を見守り続けた。その間、ゼノとクルーたちは地球の状況を詳しく分析し、どのように支援できるかを慎重に検討した。

 スターライト・セントリー号は、地球の軌道上にとどまり、調査を続けた。しばらくして、星の分析をしていた隊員から報告が入った。

「どうやら状況はかなりひどいようです。生命体は発生してから繁殖のスピードを増し、もはや星全体に蔓延し、多くの生物の生命が危険にさらされている模様です。これは星の声を聞くまでもなく同盟として議会にかける問題ではないかと私は考えます」

 リタが聴いた『地球の声』をもとに、さらに細かい調査が開始された。ユニバーサルガーディアンズの最先端技術と科学者たちの知識を総動員し、地球上の異変を詳しく分析した結果、状況が非常に深刻であることが判明した。新種の生命体が自然発生し、急速に増殖して地球全体に広がり、数多くの生物に影響を与えていることが明らかになった。

 この調査結果はユニバーサルガーディアンズに報告され、すぐに緊急会議が開かれた。各星からの代表者が集まり、発生した生命体が自然発生であることから討論が白熱し、結論を出すのは容易ではなかった。

「この新種の生命体は自然発生ですが、地球にとっては脅威となっています」

ゼノが報告した。

「私たちはどう対処すべきでしょうか?」
 ゼノの問いにユニバーサルガーディアンズの会議場はざわめき始めた。

「ワクチンを開発し、このウイルスを根絶すべきだ」という意見もあれば、「自然の摂理に任せるべきだ」という意見も飛び交った。

 ユニバーサルガーディアンズは最終的にリタを通じて地球に尋ねてもらうことにした。リタは地球の軌道上にいる間に、片言ながら地球と会話ができるようになっていた。

「なんと星に尋ねましょうか?」とリタが問う。

「私たちの力をもってすれば、その新種のウイルスに対抗する強力なワクチンを開発し、自然な形でこのウイルスをすべて消してしまうこともできますが、どうしますか、と伝えてくれ」
 ユニバーサルガーディアンズの代表が指示を出した。

 リタは静かに瞑想の状態に入り、地球の声に耳を澄ませた。リタの体が微かに揺れ始め、次第にその振動は強まり、まるで地球の心拍に同調するかのようだった。やがて、リタの目がゆっくりと開き、とぎれとぎれの言葉を伝えた。

「やめて……ウイルスも……大切な命……ウイルスと他の命……一緒に生きる……共存……調和……中和……助けほしい……それが望み」
 
 地球の言葉にユニバーサルガーディアンズの代表たちは驚いた。地球はウイルスも含めた全ての生命を尊重し、共存を望んでいるのだ。代表者たちはこの言葉に深く考えさせられ、地球の意向を尊重することに決めた。

「地球が望むのは調和と共存です。私たちの役目はそのサポートです」
 リタが静かに言った。

「その通りだ」とゼノが同意した。
「地球の意志を尊重し、必要なサポートを提供しよう」

 ユニバーサルガーディアンズは、地球が求める調和と中和を実現するための技術と知識を提供することを決意した。地球の生命体が共存し、バランスを取り戻すための支援が始まった。

 リタは再び瞑想の状態に入り、地球と交信を続けた。

 「私たちはあなた方のために調和をもたらすための技術を提供します。どのような支援が必要か教えてください」

 リタの体が静かに揺れる。やがて目を開けたリタがとぎれとぎれの言葉を伝えた。

 「まずは……人間……他の生命……共存……教える……自然……バランス……回復……手助け……」

 リタが伝えた片言の地球の言葉をどう受け取るか、ユニバーサルガーディアンズの代表たちは何度も議論を重ねた。そして、ウイルスを全て消し去るのではなく、共存の道を模索することが求められるのだと理解し、地球の意向を尊重しつつワクチン開発へと動き出した。

 ワクチン開発は急ピッチで進められた。地球の自然を尊重しながらも、生命体が調和を保ち共存できるような方法が模索された。スターライト・セントリー号の科学者たちは、リタの助けを借りて、地球の生命体の遺伝子構造や環境条件を詳細に分析し、慎重にワクチンを開発していった。

「このワクチンは、地球の生命体がウイルスと共存しながら健康を保てるように設計されています」と科学者が説明した。

 リタは再び地球と交信し、開発されたワクチンの効果を確認した。リタの体が静かに揺れ、片言の言葉が聞こえてきた。

 「これで……新しい調和……ありがとう……ユニバーサルガーディアンズ……」

 リタはその言葉を皆に伝えた。ユニバーサルガーディアンズのメンバーたちは満足そうに頷いた。

 スターライト・セントリー号のクルーたちは、地球の美しい姿を見つめながら、新たな希望を胸に抱いた。彼らの努力と知識が、この青い星に新たな未来をもたらすことを確信していた。

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