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ホシヲキクモノ【全9話】 2. スターライト・セントリー号

 リタが加入して初めての仕事は、アストリア星雲に位置するアエトラ星の支援だった。この星は天候が全く予想できず、急激に変わることが問題となっていた。
  キャプテン・ゼノはスターライト・セントリー号の指揮室で、アエトラ星のホログラムを凝視していた。そのホログラムは、星の表面で起こっている激しい天候の変化やマグマの噴出をリアルタイムで映し出していた。

「アエトラ星を調査したところ、マグマが噴火して生命体がほとんど全滅しかけている」

ゼノは深い皺の寄った額を抑えながら言った。

「このままでは、星全体が死の星になってしまう」

 リタはゼノの言葉に静かに頷き、その後ろで目を閉じた。 彼の額に浮かぶ汗の滴が緊張感を物語っている。
 リタは深く息を吸い込み、意識を集中させた。
 高度なテレパシー能力を活用し、リタはアエトラ星のエネルギーとシンクロし始めた。彼の体が微かに震え、その震えが徐々に強くなっていった。

 スターライト・セントリー号のクルーたちは息を呑み、静かに見守っていた。リタの身体から放たれる微かな光が、彼のテレパシー能力が最大限に発揮されていることを示していた。しばらくの間、静寂が支配した。

 やがて、リタの瞳の奥にアエトラ星のビジョンが浮かび上がった。赤々と燃えるマグマ、崩れ落ちる山々、そして悲鳴を上げる大地の声が彼の心に響いてきた。

 星の悲しみと苦痛を感じながら、リタは静かに問いかけた。

「アエトラ星よ、あなたは何を望むのですか?」

 リタの内に響く答えは、予想外のものだった。星は静かに、しかし力強く訴えた。

「安らぎを、再生を、そして未来を」

 リタはゆっくりと目を開け、キャプテン・ゼノに向かって落ち着いた口調で言った。

「アエトラ星は安らぎと再生、そして未来を望んでいます。私たちは、まず星の内部の圧力を緩和し、自然環境を再生する方法を探すべきです」

 キャプテン・ゼノは深く頷いた。

「分かった。リタ、君の力を借りて、アエトラ星を救おう」

「噴火している地域から少し離れた場所に水源があります。そこから水をマグマに向かって引いてください、そう伝えてきています」

 リタの声から確信を感じる。

「おお、早速調査にかかれ」

 キャプテン・ゼノの声には緊張と期待が入り混じっていた。

 パトロールチームが指示通りに調べると、地下に広がる豊富な水脈が発見された。科学技術が発達した彼らにとって、水を引いてマグマに流し込む作業は簡単だった。だが、初めての試みゆえに不安もあった。

 水を引き込み始めると、巨大な水蒸気の雲が立ち上がり、その規模は予想を遥かに超えていた。隊員たちは驚きと恐怖で息を呑んだが、リタの静かな瞑想が彼らを落ち着かせた。やがて水蒸気は雲となり、連日の雨が降り続けた。マグマは冷却され、大地は新たな生命を迎える準備が整った。

「『この雲が天候を安定させるでしょう。そして広大な大地には新しい生命が生まれこの星は生まれ変わります。あなた方のご支援に感謝します。ありがとうございました。』とアエトラ星からのメッセージです」

 リタの声には、星の感謝の念がこもっていた。

 キャプテン・ゼノはその報告をユニバーサルガーディアンズに伝えた。ユニバーサルガーディアンズの司令官は大喜びで答えた。

「まさに私たちでは想像がつかない方法でしたね。リタに加入してもらったことは最大の勝因だ。この調子でたくさんの星を救いましょう」

         ◇   ◇   ◇

 次の任務はヴェロナ星雲に位置するデイラ星だった。生まれて間もないこの星は、生命の気配が薄かった。

「リタ、この星は何を望んでいる?まだ生まれたてだし、どうなりたいのか方向性も決まっていない可能性もあるな」
 キャプテン・ゼノは慎重に言った。

 リタは静かに頷き、再び瞑想に入り、星の声を聴き始めた。彼の身体が再び振動を始め、その振動は次第に強まっていった。

 リタの瞳の奥には、デイラ星のビジョンが浮かび上がる。荒涼とした大地、まだ固まっていないマグマの流れ、そして微かに息づく原始的な生命の兆しが彼の心に響いてきた。リタはその声に耳を傾け、星の意識と一体となった。

「この星にはわずかながら生まれた原始的な生命がいます。その生命のエサになる有機体を星は望んでいます」
 リタの声には確信があった。

 キャプテン・ゼノはその言葉を聞き、指示を出した。「ユニバーサルガーディアンズに報告しよう。有機体の開発が急務だ。全加盟星に協力を要請する」

 スターライト・セントリー号のクルーたちはすぐに動き出した。ユニバーサルガーディアンズに加盟する星々がリタのメッセージを受け取り、競って有機体の開発に取り組んだ。科学者たちは実験室で試行錯誤を繰り返し、最適な有機体を作り出すために知恵を絞った。複数の星から送られてきたサンプルは数え切れないほどだった。

 スターライト・セントリー号のデッキには、多くの有機体サンプルが並べられた。それぞれのサンプルは、異なる星々の環境や生態系に基づいて開発されたもので、多様な形態と機能を持っていた。リタは一つ一つのサンプルに触れ、星との対話を試みた。

「星よ、これらの有機体の中で、あなたの生命にとって最も適したものはどれですか?」
 リタの問いかけに、デイラ星の声が微かに響いた。彼の身体が再び振動し、その振動が徐々に強まっていった。

「これだ」
 リタは一つのサンプルを手に取り、確信を持って言った。その有機体は、他のサンプルと比べて特に生命力が強く、デイラ星の原始的な生命を支えるのに最適な特性を備えていた。

「まさに望んでいたのはこの有機体です。これで私の子供たちは健やかに育ち、私の体でたくさんの命を生み出していくでしょう。この星の発展が目に見えるようです。本当にありがとう」

 スターライト・セントリー号のクルーたちはその選ばれた有機体を慎重に準備し、デイラ星の大気に適応するための微調整を行った。ユニバーサルガーディアンズの技術者たちは、その有機体を安全に星の表面に届けるための装置を設計し、最適なタイミングを計った。

「デイラ星の大気圏に突入する準備が整いました」
 技術者が報告すると、リタとキャプテン・ゼノはその装置を確認し、最終調整を行った。

「リタ、これでいいか?」
「はい、完璧です。デイラ星の環境に最も適した形で有機体を放出できます」

 スターライト・セントリー号のデッキで見守る中、装置が作動し、有機体がデイラ星の大気圏に向けて放出された。装置は正確に作動し、有機体は安全に星の表面に到達した。

「有機体が無事に着地しました」
 技術者の報告に、クルーたちは安堵の表情を浮かべた。

「さて、デイラ星の新しい命がどのように育つのか、見守ろう」
 キャプテン・ゼノはデッキの窓越しに広がる星空を見つめながら言った。

 数日後、デイラ星の環境に適応した有機体は、原始的な生命と共に成長し始め、星全体が活気を取り戻していった。デイラ星の発展が見えるにつれ、ユニバーサルガーディアンズの使命は次の星へと続いていった。

          ◇   ◇   ◇

 こんな事例もあった。
 カリオペ星雲に位置するエリシオン星だ。
 エリシオン星はかなり古い星だった。一度は文明も栄え、繁栄の時代を謳歌したが、やがて資源が枯渇し、文明は衰退した。今では、かつての栄光を思わせる廃墟が広がり、残された生命はわずかだった。隊員たちはその荒廃した景色を寂しげに見つめ、星の過去の輝きを想像していた。

 測定によると、もうしばらくすると巨大な彗星がエリシオン星に衝突し、星は爆発すると予想された。キャプテン・ゼノは、リタを通じて星の意志を確認しようと決心した。彼らは彗星の軌道を変更する計画を提案し、多くの支援物資を用意していた。エリシオン星の救援を試みるための最善の策を講じたのだ。

 リタは静かに瞑想に入り、エリシオン星の声を聴き始めた。彼の身体が再び微かに振動し、その振動が徐々に強まっていった。

 エリシオン星の意識と一体となったリタは、星の深い悲しみと疲労を感じ取った。

「もういいのです。このまま朽ち果てるのが私の使命です。消える運命を私は受け入れます。彗星を衝突させ、残った生命が苦しまないようにひと思いに消えていく道でよいのです。どうかこのままにしておいてください」

 リタを通じて返ってきたエリシオン星の答えは意外なものであり、隊員たちはその言葉に驚きを隠せなかった。

 ユニバーサルガーディアンズはリタを通して思い直すように伝えたが、星の意思は固かった。彼らはエリシオン星の住民たちを見捨てるわけにはいかないと感じ、複雑な感情に包まれた。何度も何度も話し合いが行われたが、議論は平行線をたどった。

「キャプテン、星の意思を尊重するべきではないでしょうか?」
 副官が提案した。
 「星自らが運命を受け入れているのです。私たちの役目は助けることだけではなく、尊重することも含まれているのでは?」

 ゼノは黙り込んだ。リタは静かに発言した。
 「滅ぶものがあるからこそ、新しいものが生まれるのです。それが宇宙です。むやみに助け、科学の力で形をとどめることがよいこととは限りません」

 その言葉は深く隊員たちの心に響いた。ユニバーサルガーディアンズはこの言葉に深く考えさせられ、話し合いを重ねた結果、星の意思を尊重することに決めた。エリシオン星を離れる決断は重く、隊員たちは心に残る感情を抱えながら船に戻った。

 スターライト・セントリー号は静かにエリシオン星の軌道を離れた。その後、エリシオン星のあった座標に他のパトロール船が赴いたとき、星のかけらが無数に浮かんでいたという。
 
 その光景は、宇宙の壮大さと儚さを物語っていた。

「エリシオン星はその役目を果たしました。また宇宙に新たな変化が生まれるでしょう」
 後にその報告を受けたリタは、静かに目を閉じて言った。

 キャプテン・ゼノはその言葉に疑問を感じた。

 「星が一つ消えると、新たなものが生まれるのでしょうか?その引力や他の星々に与える影響で、変化が起きるということですか?」

 リタは深く頷き、説明を始めた。

 「そうです、キャプテン。星が消えると、その周囲の宇宙環境に多大な影響を与えます。超新星爆発などの現象によって、引力の変化が起こり、他の星々や惑星の軌道に影響を与えることがあります。これにより、宇宙のガス雲や塵が集まり、新たな天体の形成が促進されるのです。また、爆発によって散らばった破片は、新たな生命の種となり、宇宙の広がりの中で新たな星や惑星の材料となります」

 ゼノはその言葉に耳を傾けながら、宇宙の広大なサイクルについて思いを巡らせた。

 「つまり、エリシオン星が消えることによって、新たな星や生命が誕生する可能性があるのですね」

 リタは再び頷いた。
「はい、宇宙は常に変化し続けています。一つの終わりが新たな始まりをもたらすのです。それが宇宙の法則であり、自然の循環です。エリシオン星の消滅は悲しい出来事ですが、それが新しい未来を創造する一歩となるのです」

 ゼノはその言葉に深い理解を示し、「我々の使命はその循環を尊重し、支援することなのですね」と静かに言った。

 リタは微笑みながら、「その通りです、キャプテン。私たちの役割は、宇宙の声を聴き、その意志に従うことです。どんなに困難な決断であっても、それが宇宙の調和を保つためならば、私たちはその道を歩むべきです」と答えた。

 スターライト・セントリー号のクルーたちは、この教えを胸に刻みながら、次の任務へと向かった。彼らは宇宙の壮大なサイクルの一部として、新たな冒険に立ち向かう覚悟を新たにした。

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