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エッセイ 走る。
私はどれくらい眠っていたのだろうか。
車は、見慣れた山間の道を走っていた。
リアミラーには私によく似た目元が映っていて、祖母が運転しているのだと分かった。助手席では祖父が、窓に額を預けるようにうたたねをしていた。
川、川原、田んぼ、田んぼ、川、田んぼ。
後部座席で私は、流れていく風景をただ見つめ続ける。
木、木々、林、川、林、山、山々。
この道は、山間部にある仮設住宅団地へと続く道だ。
「ばぁちゃん、運転変わるよ」
これ以上先の道は、きっと祖母には分からないだろう。
リアミラーの祖母の瞳がこちらを見て、意図を察したように頷く。
車は道幅の広い部分を選んでゆっくりと停まった。
チッカ、チッカと、ハザードランプが時を刻む。
他に車や人の姿は無い。このド田舎では別に珍しいことではない。祖母と私は、のんびりと席を入れ替わった。祖父は相変わらず、助手席で静かに寝息を立てている。
後部座席に祖母が収まったことをリアミラーで確認すると、私は車を発進させた。
川、川原、田んぼ、田んぼ、川、田んぼ。
後部座席で祖母は、流れていく風景をただ見つめ続けている。
木、木々、林、川、林、山、山々。
この道は、山間部にある仮設住宅団地へと続く道だ。
私はどれくらい車を走らせただろうか。
「着かないね…」
リアミラー越しに祖母を見ると、意図を察したように頷く。
道幅の広い部分を選んで、私はゆっくりと車を停めた。
チッカ、チッカと、ハザードランプが時を刻む。
カーナビの地図を設定しなおす。
補助として、スマホのマップも起動する。
祖父が助手席で静かに寝息を立てていることを確認し、私は再び車を発進させた。
川、川原、田んぼ、田んぼ、川、田んぼ。
後部座席で祖母は、流れていく風景をただ見つめ続けている。
木、木々、林、川、林、山、山々。
この道は、山間部にある仮設住宅団地へと続く道だ。
私はどれくらい車を走らせただろうか。
川、川原、田んぼ、田んぼ、川、田んぼ。
助手席では祖父が、窓に額を預けるようにうたたねをしていた。
木、木々、林、川、林、山、山々。
後部座席で祖母は、流れていく風景をただ見つめ続けている。
祖父と祖母を乗せ、私はただ、車を走らせ続けている。
夢だ。と分かった。
目指しているのは、母と私の住む、仮設住宅団地。
夢だ。と気付いた。
祖母は運転免許を持っていなかった。
夢だ。と分かってしまった。
目指す仮設住宅の一室は、母と私の部屋だ。
目指す仮設住宅の一室は、母と私しか住まぬ部屋。
祖父と祖母と、父が、
あの日、生き延びてくれていたのなら。
母と私はきっと、あの仮設住宅の一室には住んでいないのだから。
川、川原、田んぼ、田んぼ、川、田んぼ。
木、木々、林、川、林、山、山々。
”被災地”と呼ばれる場所に住む、
私たちの毎日は、
夢の中でさえ、あの日から地続きだ。
今までも。これからも。
地続きであるからこそ、
眼の前に遠く広がるこの道を、
私たちは走り続けていけるのだと思う。
川、川原、田んぼ、田んぼ、川、田んぼ。
木、木々、林、川、林、山、山々。
海。海。海。
海。
どんどはれ。
一人オムニバス企画「40%の孤独」。
二作目は、2025年の初夢の記憶でした。
私事ですが、昨日1月23日、誕生日を迎えました。
この歳になって、人生今が一番楽しいです。
傍目には分からないたぐいの楽しさかもしれませんが、だからこそ自分次第でもっともっと楽しくできるのだと思うと、とてもとても幸せ。
一つ歳を重ねたたておきの、これからの一年。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。