マライア・キャリー・チャレンジ2023が突如として始まる【2023.12.16~2023.12.22の日記】

2023年12月16日(土)

 12月中旬とは思えないほど暖かい日。朝、夫を誘って日課の公園散歩に行ったけれど、明らかに上着は必要なかった。前日の強い南風のせいか、園内のイチョウの葉っぱがあらかた散っており、一部の地面が黄色く染まっていた。まだ落ちたばかりの葉っぱ特有の、乾燥しすぎていないフカフカした踏み心地を楽しみながら歩く。途中で見かけた犬の数、18。

 お昼ごろ、所用があって実家に電話。ついでに、年末に夫と旅行で萩・津和野に行く予定であることを話す。津和野にある安野光雅美術館に行くよ、という話を、母にしたかったのだ。

 安野光雅は両親の敬愛する画家で、特に父が大ファンだった。そのため実家には安野光雅の絵本がたくさんあって、わたしと妹は幼いときから彼の絵本を読みまくって育った……はずなんだけど、この話を妹にしたら、「あんのみつまさって誰だっけ? わたし知らない……」みたいなテンションで、マジかよ、と衝撃を受ける。たった2歳差でわが実家に生まれて、安野光雅を知らずに育つことが可能なのか? 家にあんだけ絵本があったではないか。わたしが『旅の絵本』シリーズに夢中になっていたころ、きみは何に夢中になっていたのだ、妹よ。
 
 日が暮れてから、夫とふたりで横浜スタジアムへ向かう。スタジアム内を一般開放するイベントが開催中で、大音量で音楽が流れ、それに合わせてスクリーン映像やレーザービームが場内を照らすなか、普段は降りることのできないグラウンドを歩きまわれる。いつもは野球選手が座っているベンチのなかをのぞいたり、ホームベース脇に立っておもちゃのバットを片手に写真を撮ることもできる。スタジアムのバックヤードツアーもあるけれど、この日は全時間帯のチケットが既に完売していた。

 スタジアムを出てから、近くの居酒屋へ。生ビールとレモンサワー、鳥飼のロックを飲む。この店にいたのはせいぜい1時間半といったところだが、その間にマライア・キャリーの『All I Want for Christmas is You』が3回流れる。毎年、11月1日になった瞬間からクリスマスまでの間に、マライア・キャリーの『All I Want for Christmas is You』を何回耳にするか数える、という「マライア・キャリー・チャレンジ」をやっているのだけど、今年は11月前半にとてもメンタルの調子が悪く、家にこもりきりだったため、マライア・キャリー・チャレンジのことをすっかり忘れていた。なので今年は今からマライア・キャリー・チャレンジ2023を開始したいと思います。だいたい毎年、最初は面白がって数えるんだけど、クリスマスが近づくにつれて街のいたるところでこの曲が流れているため、何回聴いたかわからなくなって終わる。今年は頑張って最終日までカウントしていきたいと思う。まずは現在3回、張りきっていきましょう。

2023年12月17日(日)

 連日11時間くらい寝ている人間カビゴンことこのわたしであるが、土曜の夜から急に眠れなくなった。ベッドに入っていつもの本を読んでもなかなか寝つけず(これはよくあること)、やっと眠れたなと思ったら夜中に目が覚めて、そのまま眠れず朝を迎えてしまった。ポケモンスリープの睡眠記録を信じるならば(やっててよかったポケモンスリープ)、昨夜の私の睡眠時間は53分だ。11時間のロングスリープの日々から、突然の53分。いくらなんでも睡眠リズムがおかしい。

 夫は朝7時からテニスに行くということで、この日は早起きをしていた。それに合わせて私も起きる。もう眠れないから起きるしかない。全身に徹夜明けみたいなダルさが漂っている。手足が疲れて重だるく、関節がジンジンする、あの感じ。自分の話し声が、頭のどこか遠くのほうから響いてくるように聞こえる、あの感じ。

 目が覚めるかな、と思って朝風呂に入ってみる。多少はすっきりしたけれど、眠気は去らない。かといって二度寝できる感じも全然しない。日記を書いて更新することにする。日記は書けたけれど、脳みそが働いている気がしない。頭のなかに他人の脳みそが入っているみたい。思考と行動の間にタイムラグがある。

 ソファに寝転がって二度寝に挑戦するも、全然眠れない。夫がテニスから帰ってきて、昼食(焼きそば)を作ってくれた。お腹いっぱいになったら眠れるかな、と思いきや、やっぱり眠れない。頭はボーッとしたままで、今にも深い眠りに入れそうなのに、眠れないのが不思議な感じ。

 ならばいっそ目を覚まそうと思い、コーヒーを淹れて飲む。おいしい。少しは頭も冴えてきたような気がする。このまま夜まで寝ずに頑張って起きていよう。

 そのうち、夫が録画したNHKドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』を観始めたので、一緒に観ることにする。実際に耳が聞こえなかったり難聴であったりする役者が、ろう者の役を演じているとSNSで目にして、ちょっと気になっていたドラマだった。まだ前編しか観ていないけれど、手話を使う登場人物が多く、手話での演技をたくさん観られるのが新鮮だった。ろう者という設定の役柄が出てきて手話を使うドラマや映画は、今までにもたくさんあったけれど、こんなに多くの当事者がキャスティングされている作品は、この規模としては日本で初なのではないだろうか。主役は草なぎ剛さんです。

 ドラマが面白かったので、NHKのディレクターのnoteも読んでみる。20人ほどの当事者が出演しており、オーディションはもちろん手話でおこなわれたらしい。手話で演技のオーディションをするということは、「この役者さんは男性だけど、手話がちょっと女性的だから、役柄の印象に合わないかも……」みたいな観点があるらしく、とても興味深いと思った。

 出演したろう者・難聴者の役者さんたちが、このドラマにかける思いを語る動画もあった。その中でひとりの俳優さんが、

「テレビに出るのは恥ずかしい 出られるわけないという思いがあった その理由は私を含めて テレビでろう者が演じているのを見たことがないというのが大きい」(字幕ママ)

と語っていたのが深く心に残った。

 この日は結局そのまま夜まで起きていて、夜11時くらいに普通に眠った。来週こそはまともな生活サイクルを取り戻していきたい。

・マライア・キャリー・チャレンジ2023:現在のところ3マライア(ー)

2023年12月18日(月)

 急に冷え込んだ月曜の朝。日課の公園散歩に行くと、風が完全に真冬の冷たさになっていた。寒さと乾燥で頬の表面が軽くこわばる感じを、今シーズン初めて体感した。これはもう手袋が必要だ、帽子も冬用のニット帽に替える必要がある。途中で見かけた犬の数、4。

 この日も、ニュージーランドのアホウドリのライブカメラを見ながら朝食を食べる。ライブカメラを運営しているロイヤルアルバトロス飼育センターの公式Twitterによると、このカメラに写っている個体はLGLという名前がついているらしく、卵を温めはじめて42日目、これはちょうど折り返し地点を過ぎたところらしい。なのでざっと40日後くらいには、ヒナが誕生するということになる。いまから40日後ということは1月末だ、楽しみだな。

 夜は夫が家でオンラインセミナーのようなものを受けていた。リビングで聴いていたので、私もなんとなく参加している気分になる。情報過多時代の広告戦略やPR、ブランディングといった内容のセミナーだったのだけど、最終的には人生の話になっていた。SNS戦略と同じで人生も少数の濃いつながりが大事、いまある他者とのつながりを大切にすることで、幸福な人生が実現します……といった流れになっていて、なんだかお寺の説法じみてきたので先に寝ることにした。

・マライア・キャリー・チャレンジ2023:現在のところ3マライア(ー)

2023年12月19日(火)

 すっきりしない曇り空で迎える火曜の朝。わたしの気分もすっきりしない。最近、その日の朝の天候が、自分の気分にかなり影響することに気づいた。いつもは在宅勤務で家にいることの多い夫も、この日は出社してしまったのでつまらない。前日のボルダリングの筋肉痛で、身体中がだるい。

 夫のために買ったクリスマスプレゼントが届いたので、夜にふたりで開ける。シンプルなニット帽で、お揃いにしようと思って色違いで自分の分も買った。オンラインストアで一緒に選んだものなので、これはサプライズではない。早めのクリスマスプレゼントということになっているけれど、本当はもうひとつ、当日渡す用のプレゼントを準備してある。こちらはサプライズで渡す予定。夫はこういうイベント的なものが大好きな人間で、クリスマスもそうだけど誕生日とか結婚記念日とか、はてはいい夫婦の日(11月22日)みたいなものもしっかり祝いたがる。わたしはそういうものすべて面倒くさいと思うタイプなのだけど、彼のおかげでわたしも節目のイベントを楽しませてもらっているので良しとする。

・マライア・キャリー・チャレンジ2023:現在のところ3マライア(ー)

2023年12月20日(水)

 お昼前に家を出て、六本木に向かう。コンプレックス665のシュウゴアーツに寄る。香港出身のアーティスト、リー・キットの個展をやっている。数年前に(いま調べたら2018年)、いまは亡き品川の原美術館で開催されたこの作家の個展が素晴らしくて、いまも忘れられずにいる。

 真っ白いギャラリーの壁には、空を描いた作品がいくつもかかっている。写真のように見えるが、銀色の紙にスプレーペインティングしたもので、朝焼けのような夕焼けのような色合いに染まる空と雲が描かれている。どこかノスタルジックで、優しい気分になる空の絵。一方で床には、人の手によって破壊された洗濯機や冷蔵庫が、死骸のように横たわっている。荒々しく破壊された家電からは、暴力的な手段で奪われてしまった日常生活が想起させられる。その、生々しく破片が散らばる床と、穏やかな空の絵との対比が胸に突きささった。この個展の背景に、今の香港の政治情勢があるのは明らかだ。

 奥の部屋では映像が流れていた。うなだれる男の人を背後から撮影した、短い映像作品。男の人はときどき顔をあげ、何かを眺めるように横を向き、またうつむいたりする。最後に、何かを決意したように立ち上がり、そこで映像はブツッと切れた。

 続いて1フロア上のタカ・イシイギャラリーへ。山下紘加さんの個展をやっていた。この方の絵は、抽象と具現がナチュラルにつながっているというか、人のような自然のような、空気のような具体物のような雰囲気があって面白い。子どものころに見た怖い夢のようだなと思った。

 このあと、まだ時間がたっぷりあったので、せっかく近くまで来たのだし……と森美術館で開催中の「私たちのエコロジー」展を見にいく。展覧会の規模はわたしの想像以上に大きく、作品数も、そのスケール感も予想をはるかに上回っていた。

 森美術館には一部屋だけ、東京を一望できるやたら眺めのいい窓のあるスペースが存在する。そこに展示してあった、殿敷侃(とのしき・ただし)という作家さんの作品が印象的だった。海岸で拾った大量のゴミを、大きな穴に入れて燃やしかため、大人の背丈ほどもあるオブジェにするというインスタレーション。この作家は広島出身で、両親を原爆で亡くし、自身も亡くなるまで原爆症に苦しんだという。だからこの、廃材を高熱で溶かして真っ黒いかたまりにするというインスタレーションも、核兵器への批判を込めたものとして読みとかれる。その真っ黒いかたまりが、東京の摩天楼を見下ろす窓のそばに飾ってあるわけで、もうどうしたってそこに置かれた意味みたいなものを感じとってしまう。東京に、あるいは世界のどの都市でもいいけれど、都市のど真ん中に核兵器を落とされたとしたら。あまり想像したくもないけれど、この殿敷氏の作品のように、街は一瞬で溶けて真っ黒なかたまりになってしまうのではないか、人間が築いてきた文化のすべてが、文明と呼ばれるものが。そんなことを考えた。

・マライア・キャリー・チャレンジ2023:現在のところ5マライア(+2)

2023年12月21日(木)

 嫌な夢を見た。夢の中でわたしは、海外作家のミステリ小説を1冊まるごと日本語に訳す仕事を請けおっている(現実ではそんな仕事をしたことはない)。頑張って翻訳を進めないといけないのに、体調が悪くて1日1行くらいしか訳せない。そもそも起きあがって作業をすること自体がつらい。それでしかたなく、全然間にあわないことを元・上司に打ちあけて、激しく叱責される、という夢。自分の実力不足による不甲斐なさ、申し訳なさ、そういう苦々しい気持ちが、夢から覚めたあとも残っていた。

 嫌な夢の余韻に気持ちが支配されてしまって、朝から気分が乗らない。気分が乗らない原因はもうひとつあって、昨晩にどこかの市長が「女は子どもを産んで初めて女になる」と発言したらしく、謝罪会見をしているのをTVで見てしまったからだ。謝罪会見のなかで、その市長なる人物はさらに、「こういう発言に至ったのは、自分が教育現場にいたなかで、子どもを産んだ女性教員と産んでいない女性教員では子どもへの接し方が全然違うのを見てきたからだ」と発言して、謝罪しているつもりでセクハラにセクハラを重ねていた。本当に最悪だと思う。

 わが家は子どものいない夫婦で、それは意志をもって子どもを作らなかったのではなく、子どもが欲しくて不妊治療を頑張ったけれどできなかった結果として、残念ながら子どもがいないことになった夫婦だ。もちろんわたしは子どもを産んでいないので、この市長だとかいう70代男性から見たら女ではない未熟な人間なのでしょう、そりゃ悪うございましたね、という感じだ。欲しくて欲しくて頑張ったけれど与えられなかった機会の損失で、人間性を勝手に測られるのは理不尽でしかない。でも、こういうことを言うのは何もこの人だけではないし、なんなら女性のなかにもこういう考え方をしている人はいる、ものすごくたくさんいる。われわれが不妊治療をしていたのは10年くらい前の話なので、こういう根拠のない母性神話みたいな話にももう慣れたつもりでいるけれど、いまでも全然、新鮮に傷つく。深く深く傷つく。

 まあでも、こういうことを言う人にも悪気はないんだろうなと思う。差別はたいてい悪意のない人がする、って言うものね。だから余計に問題だといえば問題なんだけど。わたし自身にもそういうところはある。何気なく発した言葉が、あとから他人に指摘されて、それが差別的な発言だったことに気づく、なんてことは、この数年は特によくある。自分が差別的な人間だと認めるのは結構キツいことだけれど、でもこんな日本社会に生まれ育って43年で、差別的な人間にならないわけがないよね?と逆に開き直っている。これから謙虚に学んでいくしかない。

 そんなことをつらつらと考えながら過ごし、お昼になったので、在宅勤務中の夫と近所に新しくオープンした日高屋に行く。日高屋でラーメンを食べたら気分が少し落ち着いた。餃子を一皿頼んで、夫と半分ずつ食べる。誰になんと言われようと、われわれ夫婦は最強のカップルとして人生を謳歌してやるのだ。最高の家族として、一緒に日々の暮らしを楽しむのだ。

・マライア・キャリー・チャレンジ2023:現在のところ6マライア(+1)

2023年12月22日(金)

 よく晴れて穏やかな、でも寒さの厳しい金曜日。お気にいりのロイヤルホストまで散歩がてら歩く。グリルチキンサラダを頼み、ドリンクバーでローズヒップティーを入れて、サラダを食べながら飲む。ティーバッグを入れっぱなしにしていたので、最後のほうは味が濃くなってしまい、さすがに苦いな……と思ったところで、はたと気づく。これは絶対にローズヒップティーじゃない! ローズヒップティーはこんな味はしない。何か別のティーのティーバッグを入れてしまったに違いない。明らかに味が違うのに、飲みおわるまでまったく気づいていなかった自分に愕然とする。えっ、じゃあ、わたしがおいしいなあと思いながら飲んでいたこのティーはいったいなんのティーだったんだ。もう一度ドリンクバーに行って、確認してみる。たぶん、ローズヒップティーのティーバッグを選んでいるつもりで、上段にあるダージリンのティーバッグを取ってしまった気がする。ということは、わたしがローズヒップティーだと思って飲んでいたティーはダージリンティーだったのか。ああびっくりした。しかしローズヒップティーとダージリンティーでは、いくらなんでも味が違いすぎる。というか、液体の色が全然違う。ひと目でわかるだろ、せめてひと口目で気づこうよ、自分。どうかと思うよ本当に。まあおいしかったからいいか~。


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