ウェディングドレスの彼女【2023.12.01の日記より】

 横浜・みなとみらいでバスを待っていたら、向かいの通りをウェディングドレスを着た女性が歩いていた。真っ白いドレスのたっぷりした裾を両腕で抱えこんで歩く姿が、街なかでひときわ目立っている。結婚式の前撮り写真の撮影中なのだろう。みなとみらいは結婚式場が集中しているからか、ウェディングドレス姿で撮影している人たちをよく見かける。だからそれ自体はさほど珍しくないのだけど、この日に見かけた女性は、ドレスの上にバブアーのジャケットみたいな、茶色い襟のついたアーミーグリーンの上着を羽織っていて、それが強烈な違和感にもかかわらず絶妙にドレスとマッチしていて、思わず目で追ってしまった。

 バブアー風ジャケットは、寒いから撮影地までの移動中にドレスの上に羽織っていただけで、それ以上の意図はないのだろう。彼女自身の服ではなく、スタイリストやフォトグラファーといった撮影クルーの私物で、花嫁さんが寒そうだから貸してあげたのかもしれない。それでも、明確な意図をもってスタイリングしたかのように似合っていた。フワフワしたドレスのボリューム感と、短い丈のジャケットのバランスは計算しつくされたかのようで、ゆるくまとめあげた茶色い髪の毛と、コーデュロイ素材の襟の色のトーンが完璧に合っている。日常的でカジュアルな上半身と、モコモコして非現実的な下半身のアンバランス感が、街で買い物していたら急に雲の上に乗せられちゃった子みたいで、なんだか平等院鳳凰堂の雲中供養菩薩像を思い出した。雲から飛び降りたらスタバでフラペチーノを買って、飲み物片手に教会に駆けこみ、そのまま結婚式を挙げるんじゃないか。そんな想像をしたくなる。

 美しいドレスにカジュアルなジャケットを合わせるスタイリング自体はよくあるものだけれど、さすがにウェディングドレスでこれだけ素敵な着こなしが見られるとは思っていなかった。これがバブアー(と思われるブランド)のフィールドジャケットではなく、黒いレザーのライダースジャケットだったら、決まりすぎて嘘っぽくなっていたのではないか。ダウンジャケットだったら、スポーティすぎて防寒のために間に合わせで着たのが見え見えで、特に面白くはなかっただろう。土臭いバブアーと清純なドレスが、純朴さという共通点でタッグを組んで、強い違和感を乗りこえて彼女の魅力につながっていたのだと思う。

 いわゆる「おしゃれ」なスタイリングにはいろいろな方向性があるけれど、わたしはかすかに違和感のある着こなしが好きだ。ちょっと妙な色や柄の組み合わせとか、あまり見たことのないボリューム感とか、上記の女性のように普通は組みあわせないアイテム同士を合わせるとか。服装は社会規範の影響を色濃く受けるので、そこで違和感を出すということは、社会の押しつける型にはまっていないということ、規範から自由であるということ、あえてはみだそうとしているということだ。

 そういう、規範から逸脱している人を「はみ出し者」扱いするのではなく、「おしゃれな人」としてリスペクトする文化が、ファッション業界にはある。日本でいえば東京のごく限られた地域の、一部の人たちだけで構成されているコミュニティかもしれないけれど、それでもそういうカルチャーがあるのはすごくいいな、と思う。ただし違和感があればいいというわけではなくて、その違和感が本人の人柄をいっそう引きたてているか、あるいはしっくりなじんでいるかしないといけない。そうじゃないと魅力的にはならない。ここは難しいところだと思う。

 そういう意味で、この日に見かけたウェディングドレスの彼女は、わたしの目にはとても魅力的に映った。なんだかずいぶんいいものを見せてもらったな、と思った。

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