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人に委ねることで、見えてくる自分もあるよね

今年、私は美容室に一度も行っていない。

ぶんしょう舎の課題「私が美容室に行く理由」が出されたことで、改めて気がついた。
そういえば私行っていなかったな、と。

理由は私がロングヘアで伸ばしっぱなしでもなんとかなることと、コロナ禍だから、というのが大きい。でも、そもそも私が美容室に行く理由ってなんだろう?と考え始めたら、心の旅に出ることになってしまった。

自分の髪型の変遷をたどると、物心がついた頃にはロングヘアだった。物心がつくのが遅かったのか、はたまた髪の毛がのびるのが早かったのか。保育園のロング以前に髪型で印象的なできごとは思い出せない。

当時、長い髪をおろしていることはほとんどなく、おさげやポニーテールにしたり、左右の三つ編みを輪っかにしたり、なにかしら髪を結いていた。基本は母にお任せ。「今日はどんな髪型になるのかな〜」とワクワクする朝の時間が好きだった。
髪型によって、昨日とは違う新しい自分になれる感覚を楽しんでいたようにも思う。まわりの友達も、私がどんな髪型で来るのか、楽しみにしていた記憶がある。

それからはセミロング、ショートカット、ロングとさまざまな長さを経験した。流行りのアイドルの髪型のマネをしたり、美容室にカタログを持っていって「これにしてほしい」ということもあった。
引っ越しなどで行く美容室もたびたび変わり、カットした髪型が似合うこともあれば、これはちょっと……(苦笑)と、失敗することもあり、ひと通り繰り返して大人になっていった。

10年前にここに引っ越してきてからは、ずっとひとつの美容室に通い続けている。浮気せずにずっと。担当もMさん一筋。
理由はシンプル。上手いからだ。
今年1年近く美容室に行っていなくてもそれなりにキープできているのは、なんといってもMさんのカットの力量と言えるだろう。なにより、私の髪を熟知してくれていて、適切なアドバイスをしてくれるのが助かっている。

私はふにゃっとしたクセ毛だ。Mさんはそれをよくわかっていて、クセが出ないようにではなく、活かして切ってくれる。私はこのクセに苦労してきたが、Mさんに切ってもらうようになってからは圧倒的に扱いやすくなった。
乾かして手でくるっとするだけで、パーマやコテで巻いたように“ゆるふわ”におさまるのだ。いい歳して“ゆるふわ”はどうかとも思うが、気に入っているし、結構似合っていると思う(笑)。
パーマでもなく、巻いてもいないというと、周りの人にもうらやましがってもらえる。

こうしてもっぱらクセをいかした“ゆるふわ”ヘアに落ち着いた。扱いにくいかったのに、ちょっと自慢の髪に変わったのだ。Mさんのアドバイスがなければ、この髪型には辿り着かなかっただろう。
髪型が落ち着いた今も、ヘアカラーや前髪の切り方、長さの加減やセットの仕方など、毎回Mさんは、プロの視点でなんらかの新しい提案をしてくれる。そのたびに、私は改めて自分の好みに向き合えたり、似合うものを発見できている

ここで、「マツコ会議」という番組でマツコさんが言っていた言葉を思い出す。

有名アーティストに楽曲提供している注目のティーンズ作曲家たちの回だった。その中のひとりが自分のオリジナリティの追求のために、あえて学校には行かず独学で作曲法を編み出したと話した。彼の強い意志を称賛しつつも、そのときにマツコさんが言った言葉がこれだ。

「アタシはそんなに強い人間じゃないし、流されて生きてきたからこそわかった部分もあるのよ」
流されてみると自分が絶対チョイスしない場所に着いたり、見えない景色が見えたりするから、そこでアタシは気付かされてきたタイプ」
「やりたいことにおいて『どうしようかな、踏ん切りがつかないな』って思ってる人がいたとしても、『夢を叶えられない、先がない』ではないよってアタシは付け加えたいんだよね。どうしても」

自分の意志で道を選び、切り開いていくことは、生きるうえでとても大切なことだ。でも、ときには人に委ねることがあってもいいと思う。それで新たな自分に気づけて、選択肢が広がることもあると思うから。

そういえば、私がなぜ1年近くも美容室に行っていなかったのか。

私は今年の中盤から、とにかく元気がなかったのだ。気力も余裕もなく、ひたすら後ろ向きの沼にどっぷりとつかっていた。
沼の中でそこそこ考えつくした結果、悲しんでも、楽しんでも時間は同じだけ過ぎ去ってしまうと思えたことと、人生の先輩の言葉が前を向く後押しをしてくれた。

「1つの失敗や間違いに囚われすぎて残りの9つのよいところが疎かになるよりも、9つに目を向けて社会やまわりに返していくことを考えなさい」

人は不完全であり、その不完全さを引き受けながら生きていくのだ。

そして私は約1年ぶりに美容室を予約した。

美容室には新しくカラーリストさんが入っていて、Mさんがカットを、カラーリストさんが色のアドバイスをしてくれた。今回は初めて何本かシュッと細いハイライトを入れてみた。まばらに入れることで髪に動きや流れが出る。動くたびに髪の表情が変わるのだ。
仕上がってから、カラーリストさんが「とてもキレイな色が出ました。自画自賛ですが(笑)同じ色を染めても髪質によって出方が変わるんです。カラーさせてもらって私もとても楽しかったです!」と言ってくれた。キレイにしてもらったうえに、喜んでもらえて、倍うれしかった。

明るさも暗さも、いいところも悪いところもある“まばら”な私。状況や環境によって、捉えられ方が変わることもある。
人と関わって、委ねて、そのたびに感じて気づいて、選択して。少しずつ変化しながら、しなやかに生きていこう。
いくつになっても。これからもずっと。

新しい自分に出会うために、私は美容室に行く。

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