明るさ (岸田劉生「初夏の麦畑と石垣」)
画家の岸田劉生(1891年〜1929年)を知ったのは、中学校の美術の教科書に載っていた「麗子像」がきっかけだった。その後、この麗子像には多くのバージョンがあると知った。どの絵からも麗子への愛憎が感じられ、怖くなった僕は少し距離を取っていた。
最近、ウェブ版「美術手帖」の記事で、展示「日々を象(かたど)る」が紹介されており、そこで岸田劉生の「初夏の麦畑と石垣」という絵を知った。
「初夏の麦畑と石垣」
画像元:https://bijutsutecho.com/exhibitions/5772
衝撃を受けた。なんという石垣の明るさか。通常であれば、左奥にある杉の道の暗さとの対比で、左の麦畑は明るく見えるはずだ(夏の麦畑は春よりも秋よりも冬よりも一番眩しいだろう)。しかし、この世のものとは思えないこの石垣の明るさの前では夏の麦畑さえ暗く見える。あの世は、地面の下などではなく、実はこの日常世界のすぐ裏側にあるのかもしれない、とさえ考えさせる。
インターネット上の画像などではなく、実際の絵を見ると印象が変わるだろう。が、とりあえず。
「初夏の麦畑と石垣」は、鎌倉の神奈川県立近代美術館鎌倉別館で2020年6月9日〜7月5日開催の「日々を象る」展で展示中。