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超ショートショート

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2000字以下程度の、とても短い小説。喜劇的(コミカル)な作品多め。
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140字小説10篇 #1

「夫のどこが好きなの?」佳奈の会話はいつもこうだ。行動には何にでも理由が必要だと考えている。自らの美しさが原因で男が寄ってくる経験を積み重ねてきた佳奈。感覚で男を選ぶきっかけを得られないまま歳を重ねてきたのだ。「どこが好きか気にしているうちは、結婚は無理そうね」優美な唇が歪んだ。 『愛は無条件』 ★ 歴史とは夜型と朝型の闘争である。今こそ苦しみ続ける同胞を救う時。人類を進歩させる発見は夜に生まれる。だのに、社会は夜にただ寝ることを求める。愚かな。朝型は恐れている。夜型の

力への意志

 キャンパス内の庭園で、待ち合わせの相手を探す。照り映える芝生の青に春を感じる。  髪をさらう風が冷たくなってきた。もう陽射しが傾いているのだろう。学生同士のお喋りもあまり聞こえてこない。  レジャーシートに座っている人物が、こちらに気づき手を上げていた。 「フアン!」  紺色のジャケットとスラックスの上下に白の襟付きシャツ。そつのない彼らしい。 「ヒロ、久しぶり」  ブーツを脱ぎ、彼の隣に座る。 「どう、新しい学校には馴染めてる?」 「茶化してるでしょ。  同じ大学の同じ研

もっと速く! もっと、もっと速く!

 ゲンは小学校に通っている燕の男の子です。  授業の後、クラスメイトたちとゲンは、息を合わせて飛ぶ練習を繰り返していました。 「行き過ぎだよ! もっと早くスピードを落とさないと!」  燕は速く飛ぶのは大得意です。でも息を合わせて飛ぶのは上手くありません。  燕の小学生たちが息を合わせて飛ぶ練習をしているのは、ケガをしてしまった燕を病院まで運ぶためです。  最近、人間がつくった「ドローン」が空をたくさん飛ぶようになったせいで、燕とドローンがぶつかる事故が起きるようになりました。

生前協議

 夫は落ち着かない様子で、行ったり来たりを繰り返す。私は私で、後ろ髪に櫛を通す手が止まらない。  私たち夫妻は極度の緊張に晒されていた。これから会うのが、私たちにとって大切な人だから。 「××番の方、面会室へお入りください」  夫と目が合った。表情に不安が一刷け、塗り重ねられる。  差し出された手を握り返し、面会室へと歩を進めた。  胸の下の膨らみに手をやる。世界が私たちを祝福していた。  妊娠できたことで五年間やってきた不妊治療も報われた。家族も友人も喜んでくれた。もう名

水泡に帰す水泡

 仕事から帰ると、パン・メーカーから景品のコップが届いていた。毎日食べているパンについているシールを50枚地道に集めた成果だ。  懸賞には確実に当たるものしか応募しない、と決めている。確実に手に入るものにしか興味を持たないことにしている、と言った方がいいかもしれない。  シャツのボタンを外し、居間のソファに腰を落ち着ける。  箱を開けると、ガラスのコップに自分が小学生の頃に人気だったキャラクターの顔が描いてある。  当時は彼が出ているアニメを毎週見ていた。毒舌を帯びた鋭いツッ

神様小学校

 教員会議は紛糾していた。 「ならぬ。断じて其のような見解は認めぬ」  筋骨隆々の武神が首を振る。 「妾の退屈が些かでも紛れるなら其れで宜し」  豊穣神が端正な両足を組み替える。 「彼のような徳目、非力な存在が愛でるもの。我らが要する事態など、ゆめゆめあるまいて」 「其の方は相も変わらず退屈じゃの。時には、妾の予想から外れてほしいもの」 「何を! 我を愚弄するおつもりか。積年の因縁に蹴りをつけても構わぬぞ」 「妾は一向に構わぬ」  椅子を蹴立て、豊穣神の眼前に剣を突きつける

万国の夜型人間に告ぐ

 歴史とは、夜型人間と朝型人間の闘争の歴史である。  あらゆる社会制度は、朝型の既得権益を保持するためにつくられている。  万国の夜型人間たちよ、今こそ団結し、共に立ち上がり、積年の弾圧に立ち向かい、艱難辛苦を押し付けられてきた同胞を救う時である。  思い起こしてみよ。人類の進歩を形作ってきた思想や発見はいつ生まれたか。  夜だ。  夜の静謐こそ、鋭敏で精密な思考を可能にする必須条件だ。  だのに。  種々の制度は夜にただ寝ることを求める。  なんたる愚行。  朝型の暗

サーカス注射

 注射の痛みで、子どもたちが泣き叫ぶ。  親や医師たちの頭を悩ませる、病院ではおなじみの光景だ。  彼らがこれ以上痛い思いをしないため、「サーカス注射」が開発された。  「サーカス注射」は、注射中に子どもたちの脳内でサーカスを上映する。  サーカスに夢中になっている間に注射を済ませられるので、子どもたちは泣き叫ぶこともなくなった。  親や医師たちの評判も上々だった。  だが、彼らは程なくして新たな問題に直面することになる。  子どもたちは、「ずっとサーカスを観ていたい。そのた

道をつくるのには訳がある

昔々あるところに、世界の中心と呼ばれた大きな国がありました。 西方の異国との貿易が始まったことで、都はにぎわいを増していました。 一方、この国の西方を司る守護神は、貿易によって指数関数的に増えていく業務に忙殺されていました。 働いても働いても仕事が減らず、楽になりません。 他の三神には悪いけど、このままでは年に一度の都での会合にも顔を出せそうにないかな。同窓会みたいなものだし、出たいけど仕方ない。 西方の守護神は痛む腰をさすりながら嘆きました。 窮状を耳にした東方の守護神は、