味読感想3『かぼちゃのポタージュ』:0003
鮮やかな橙色のかぼちゃのポタージュ。
塩気の強いクラッカーを割り入れ、スープを吸ったところを一緒に食べると、クラッカーのしょっぱさがかぼちゃ本来の甘さを引き立て、口に運ぶ度にお腹がぽかぽかと暖かくなります。
かぼちゃのポタージュのような『アルルの寝室』は、ゴッホが日々暮らしていた寝室を描いた作品です。淡いブルーの壁、赤いカバーのベッド、麻紐で編まれた座面の質素な椅子。誰もいない部屋ですが寒々しい印象はありません。
私にとっては、ゴッホという画家が一体何者なのか一切知らなかった頃から『アルルの寝室』は特に好きな絵画でした。
ひまわりや糸杉、星月夜のような激しさはなく、ありふれた1日を生きる目でアルルの寝室は描かれていて、馴染みやすくホッとする絵です。
ゴッホは1888年10月頃、南仏アルルに訪れ画家たちとの共同生活を夢見ながら『アルルの寝室』を描きました。
明るい画面ですが、現実のアルルの寝室では逆光で、本来はここまで明るい部屋でなかったようです。友人を待ち望むゴッホの喜びが表れています。
また『アルルの寝室】はゴッホにとって重要な作品であり、作品が水害によって損傷した事をきっかけに、合わせて三枚描かれました。
三枚は微妙に筆致が異なり、ゴッホの心の変容が伺えます。
一枚目はゴッホ美術館所蔵。
色彩が特に鮮やかでメリハリが効いています。収穫したてのかぼちゃを料理したかのような印象です。
二枚目はシカゴ美術館所蔵。精神病院に入院中描かれたものですが、心の不安から筆致は荒く色も少し暗いですね。叶わなかった理想の苦味が出ています。
それでも幸せを夢見ていた頃の寝室を、苦味を噛みしめながらも模写する事で、不安定な心をなんとか穏やかに生きたいと願いが込められていたのかもしれません。
私は特に、オルセー美術館所蔵の三枚目が好きです。
ゴッホが母に送った小さめの作品であり、家族へ送って見せたいという思いが優しい筆致となっています。かぼちゃを潰して何回も濾して、なめらかな口当たりにしたかのような味わいです。
ゴッホは炎の画家という二つ名がありますが、私はどちらかと言うと、溢れ出る感情をなんとか知性と論理をもって必死にコントロールしようとしていたように感じます。
友達も恋人も欲しかったし、自分の絵が売れて欲しかったし、そうした願いは現代の人間となんら変わらない。
その願いが叶う生き方はできなかったとしても、アルルの寝室が私達に与えてくれるのは、風邪をひいた時や元気のない時に食べたくなるスープのような味わいだと思うのです。
※参考にしたテレビ番組『美の巨人たち』2018年10月20日放送
画像元↓BarbeeAnneさんからダウンロードさせていただきました。
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