★吹井賢『破滅の刑死者3 特務捜査CIRO-S 死線の到達点』
コミカライズも決定した『破滅の刑死者』の第3巻です!
今回、トウヤと珠子が潜入するのはシンガポール行きの豪華客船です。犯罪組織が運営に絡むカジノ船で、Cファイルが取引されるとの情報が。二人は注意を引き付けるための陽動であり、実際にファイル奪還を狙うのは他の捜査員だといいますが……。
トウヤたちは、別動隊の人物が誰か知らされていません。加えて、『瞳の色が緑』という情報のみ明らかな敵の存在もある。誰が味方か分からない船内を、二手に分かれて情報収集していきます。
そんな中、発見された惨殺死体。事件を隠蔽し船は運航を続け、そうと知らない珠子は襲われる事態に。圧倒的に不利な状況ながら、過去の教えを思い出し、戦況を打破する方法を考えます。
一方のトウヤも、命を賭けたゲームに参加することに。相手に分があるだろう条件で、彼は相変わらず、とんでもない策を講じる。
各々の奮闘、勝敗の行方に非常にはらはら。緊張と興奮を胸に見守る中、発覚する“本当の罠”と迎える結末。
想定を超える展開に、やはり魅せられることとなりました。
今回とても印象的だったのは、賭ける人間たちが集っていたこと。
舞台はカジノ船ですから、賭けに興じる客も多いでしょう。けれど、娯楽や遊びではなく。
本当の意味で賭け、真剣に生きる少女。
危険なほどにギャンブルを愛す男。
憎悪に染まり復讐を望む、死に物狂いの男。
リスクを負い、自分の在り方を貫く男。
もちろん、戻橋トウヤも。
命をも賭ける人々が、多く登場する。
今まで、幾度となく賭けてきたトウヤ。3巻は、そんな彼の生き方に改めてスポットを当てたような印象がありました。
自身に価値があると思えず、称賛や承認を求めた少年。それらを得るために平然と自らを傷付け、命を賭け、死線の上にいる時にだけ生を実感できる。自分が自分である為に、賭け続け、生きてきました。
他者からは、「狂っている」「おかしい」等の言葉を向けられます。「いつか死ぬことになる」と言われたこともあった。けれどもトウヤは、「人はいつか死ぬ」「大事なのはどう生きるかだ」と返して。
賭け続ける生き方そのものに、彼は賭けている。譲ることも、曲げることもできない。
たとえ、忠告を受けたとしても。その必要が、なくなったとしても。
自分がそう決めたのならば、トウヤは進んでゆくのでしょう。危機を愉しみさえして。
気が狂れているとしか映らない言動や、命知らずな手段を取るトウヤですが、その裏には思案と計算があるんですよね。自暴でも無謀でもない。どの手を打つか決めるために、洞察力や感性、怜悧な頭脳、能力といった持てる全てを注いで、状況や思惑を読み、見極めていく感じがします。
そして、普通ならば思い付かない、実行しないような作戦でも。失敗すれば死もあり得る策でも。望ましい結果に繋がるならば、彼は選ぶ。その選択に賭ける。
そういうところに、強く惹きつけられるのかもしれません。物凄く真剣で、懸命で、自分の生き方を貫いていると感じるから。
その行いは破綻しているようでも、根幹にあるのは誰もが抱き得るもの。普通の生き方ができなかっただけで、何処にでもいるような、ただの少年。
それもまた、彼に引き寄せられる要因なんだろうと思います。
この巻で、トウヤは自身の対となる存在、表裏だという相手と、対峙することになります。何が同一で、どこが違うのか。その対比も、決着がつく場面も、なんとも印象強く、忘れられないものでした。
まだまだ考えを巡らせている部分も多く、1-2巻と合わせて見返しているのですが、改めて気付くことが多いですね。
「破滅の刑死者」は何度も読みたくなる、大好きなシリーズです。
★2巻の感想はこちら
・『 破滅の刑死者2 内閣情報調査室CIRO-S第四班 』