初めてのご主人様のこと

その人の持つ空気感、眼差し、それだけで異性を発情させる事が出来る人って一体どれだけいるのだろう。

トモさんのポストの画像を見ながらふと考えた。

いや、多分私が出会っていないだけでたくさんいる気がしなくもないけど。

よく考えたら、出会った中でトモさんは2人目だ。
独身の頃のご主人様は二人きりになった瞬間、ガラリと雰囲気を変える人だった。


いわゆるオフ会で出会った彼。
一回り年上、大人の余裕だけでなく、遊ぶときは子どもに戻って全力で遊ぶ楽しい人だった。
私はひとり北の大地から関西まで遠征してたこともあってオフ会の日程に追加して憧れだった関西圏を楽しんでいた。

公共交通機関が細やかにある関西圏も少し都市部から離れると車でないと行けない所も多い。

「ちほちゃん、明日はレンタカーで行くん?」
「ですねぇ。さすがに少ないバスに揺られちゃうと滞在短くなるので」
「俺の車で行こか?遠いしこっちの道慣れてないから時間かかるやろ」
「え!いいんですか?」
「晩飯奢ってくれたらええよ〜」
「マジで!?ラッキー!助かります〜」

オフ会に参加してる他の面子と違ってギラギラしてなかったから二人きりになっても身の危険を感じることはなかろ。

その予測は半分当たって、半分当たらなかった。


その日の夕方。
彼おすすめの地元のお好み焼き屋さんで本場のお好み焼きとはこういうものだー!と堪能し、ホクホク顔で車に乗り込む。
助手席に座った瞬間、こちらを見る彼と目があった。

…え?
何が変わったのか、一瞬わからなかった。
でも店を出る直前まで冗談を言って私を爆笑させていた人と、運転席に座る彼が同一人物には見えなかった。

私は思わず、下腹部を押さえた。
今でこそ説明できるが、子宮が求める相手、という本能的な衝動をそれまで知ることはなかったから、自分の身に何が起きているかわかっていなかった。

それまでまとっていた、頼りがいのある優しく楽しいお兄さん、が実はものすごく獰猛な狼だったのだという衝撃と突き上げるような性の衝動。

その私の反応を楽しむようにうっすら笑った彼は、車を発進させながら言った。

「ホテル、これから決めるんやろ?俺に任せてくれへん?」
「あ、はい…」
「目は口ほどに物を言う…やな」
「え?」
「自分、メスの顔になってんで」
信号待ちの間に舌を絡ませ合う長いキス。
「オスのこと欲しくてたまらんようになってるなぁ…」
耳元で囁かれて私は頷くことしかできなかった。
それくらい一気に魅了され、全てをさらけ出したくなっていた。


市内のシティホテルの駐車場。
私は屹立した彼のものを口いっぱいに頬張っていた。否、頬張らされていた。
誰に見られるかわからない。係の人も巡回してる。
「気持ちえぇなぁ…」
頭を押さえつけられて不思議と体が反応する。その時まであまり好きではなかったことなのに夢中になっていた。
「ええ匂いしてきたで…。」
そう言われて恥ずかしさに身悶えする。

そのときはある程度私が発情したのを確認してから部屋に連れて行かれる。
当たり前のようにクイーンサイズのベッドが置かれた部屋。
高層階からの眺め。
初めて見る景色に子どもっぽいけどテンションが上がる。
少し離れた所にマンションがあり、カーテンを引いてない部屋の中で何をしてるかシルエットで見えるくらいの距離感。

「こっちから見える言う事は…向こうからも見える、言う事やな…」
床まである窓に全裸を押し付けられたまま交わる。かと思えばバスローブのベルトを使って拘束され、獣のようにひとつになる。

それまで何人もの男性と交わり、それなりに色々経験してきたことは全ておこちゃまの世界だったのだと私は知った。

自分が様々に辱められ、身動き取れない状態のまま全てをさらけ出し、男に支配される歓びを初めて味わったのはこの夜だった。

会わなくなって20年経つ。
3年ほどの濃厚な主従関係は他の女性の影を見た私が彼を責め、それに対して否定も肯定もしてくれなかったことで呆気なく終わりとなった。
物理的な距離もあった。
もしどちらかが同じところに住んでいる人であったら…私は未だにあの快楽の檻から抜けていなかっただろうな、と今でも思う。


なんでこんな話をしたか。
トモさんのポストの画像とかもそうなのだけど、メールのやり取りのみになった彼から「(北の大地に)ツーリングに来てる。元彼女の地元にも行った。広々としてて空も高くて、ああ、こんなところで育ったからあんなおおらかな心の子になったんやな…って思ったんだよね。」
そう連絡が来たから。

来るんだったら事前連絡せぇよ…と思いつつ、もう会うことはないのだろうな、とも思った。
きっと今会ったところで時間の針は戻らないけれど。

たくさんの歓びと、たくさんの喪失感をくれたからこそ、今の私がある。

従順にオスの求めるままの姿を晒したい。そういう自覚をさせてくれたのは間違いなく彼で、だからこそ未だに忘れられないのだと思う。

厳密な意味での主従関係はもう誰とも構築できないだろう。
トモさんは私だけのトモさんにはなれないから。
そういう意味で彼は最初で最後のご主人様なんだろうな…。

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