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5|実測と床の間の異世界

家の改修はまだ目に見える形ではほとんど進んでいない。ではここ数ヶ月何をしていたかというと、家を測っていた。

新築ではなく既にあるものの改修をする場合、建物を測る「実測」が必要になる。柱の太さ、天井の高さ、鴨居の位置、幅、床の間の高さ、奥行き、、、さらには天井裏や床下など、とにかく、その建物を構成している全ての要素のサイズを測る。それがあってはじめて、上から見た平面図(いわゆる間取り)、横から見た立面図といった図面が起こせる。

リノベを進めていく我が家は「教材」だ。夫の研究室の学生と、わたしも夫も子供も、みんなで学ぶ対象にするもの。だから効率は考えずに、締め切りもなく、学べるだけ学び尽くすことを基本にやっている。あとは子供がいるのもあって、けっこう時間がかかった。

多くは夫と、建築関係の仕事を目指す学生たちによる作業だったのだけど、いわく、実測とはつくった人の意図をなぞる行為である。

空間を全て図面上の数値に置き換えていくと、なぜこの部屋の南側の窓を東側と同じ高さにしなかったんだろうとか、通常柱がくる位置にあえて置かない構造になってるのはここからの景色を重視したからだろうかとか、見てるだけだとわからないことが、ある量感を持ったものとして実感できる、つくった人の意識みたいなものが、体に入ってくるらしい。

それとは少し違うのだが、わたしは実測を経験して、あらためて「床の間」に興味を持った。床の間、というくらいだから床が畳部分よりも高いわけだけど、それだけじゃなくて、天井付近に部屋の中心から見た場合の囲いというか、天井から降りている壁があって、床の間の天井は部屋の中からは見えないようになっている。そのことに初めて気づいた。

壁によって天井を隠すことで、床の間の縦方面の空間の広がりが感じられる。何もない空間、大げさにいうと、無限性が現れる。

その目を持って寺にいくと、同じように仏様のいらっしゃる場と、参拝に入っていける場との仕切りに、絢爛豪華な欄間があることに気づく。もしかしてと思って「仏壇」と検索すると、いわゆる仏壇には欄間があって、モダンをうたうものにはないものが多い。

共通するのは天井から伸びている丈の短い壁で、それが、その先にある空間の異世界感を醸し出している。一部閉じられていることが、かえって空間の広がり、終わりのなさ、別の場所との繋がりを感じさせる。

床の間も、異界と繋がる場なのかもしれない。家の中にそういう場所があるって、なんかすごいな、と思った。右往左往する世相の中にある感情や関係とは違う場との繋がりを、空間として在らしめてるってことだから。

測らなければこうは思わなかった。なんで収納にしないんだろう?収納にしますよ、とスルーしてた。今も床の間をそのまま活かそうとはなっていないけど、とりあえず立ち止まって床の間について考えた。疑問は疑問として、頭の中に留め置かれる。それはそれだけで十分大きなことだ。



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