8|猪を捌く-3 猪を食べる
捌いたその日に食べたのは、鮮度が重要な心臓、とれたてのハツ。
こんなに食べられるのか?って大きさだったのが、焼くとみるみる1/5くらいに縮んだ。潔く塩胡椒でいただく。
「おにくってほんとにおいしい!」
モリモリ頬張って食べる子供。お肉っておいしいよね。猪のハツは、コリコリともじわじわとも違う、鳥のハツとレバーの中間みたいな食感で、ずっと噛んでられる旨味。
人は肉を食べたおかげで人になった(三井誠『人類進化の700万年』だったと思う)。脳は燃費の悪い器官だから脳を発達させることはいきものとしてのリスクが大きいのだが、人は色々な要素が重なって脳が発達したことで効果的な協力ができるようになり、狩猟の成功率があがることで肉が食べられて、肉は消化の良いエネルギー効率に優れた食べ物だからまた脳が発達できて、狩猟の成功率があがって、また肉を食べて…という繰り返しで脳が発達して、二足歩行の猿が人になったらしい。
日本人といえばお米だが、人といえばお肉という、原点的食べ物なのだね。ふるさとの味。
猪肉は合計10kgくらいだろうか、だいたい1回で食べる分に切り分けて、血抜きをした。塩水につけて揉み洗い、水が赤くならないところまで、5回くらい繰り返す。うち半分ほどを冷凍。
まずは焼肉。できるだけ薄く切って焼く。
猪独特の匂いが、スパイスがあると旨味に転じる。肉とスパイスの相性‼︎
塩だけより断然、塩胡椒。カルダモンとかシナモンもよかった。
冷蔵庫のなかった時代、肉を美味しく食べるためのスパイス-胡椒一粒が金貨一枚の価値を持ったことを実感した。ヨーロッパの自然環境では肉を食べても、スパイスは自生してなかった。大航海時代、「スパイスが世界を動かした」意味がわかった。なんだかんだ、食べ物が歴史や宗教をかたちづくってきたのではないか(『肉食の思想』)。
翌日は猪鍋。鰹出汁と味噌と酒と砂糖のごく一般的な味つけに、生姜を効かせる。肉は前日に一口大に切って酒に漬け込んで、タンパク質を分解する酵素の力を借りて、柔らかくする。
とてもおいしくて、がしがし食べた。旨味がある。なんていうか、強い味がする。これはいいぞ。生姜と、パクチーを入れたのも良かった。やっぱり香りの強いものと合う。お出汁で上品に炊いて、は違うと思う。
3日目。友達を呼んで、カレーと、また焼肉。
カレー用の肉は塩麹、パイナップルジュース、ニンニクをすりおろしたものとローズマリーに一晩漬ける。玉ねぎたくさん炒めて、生姜とニンニク入れて、各種スパイス入れて、ホールトマト入れて、煮込んで、またスパイス入れて、カシューナッツでとろみをつける。生クリームを少し入れる。
猪らしさが活きているのかはわからなかったが、カレーは大変おいしかった。スパイスの調合を変えて、ベストマッチを探求したい。
焼肉は部位が違うからか、前に食べたのよりも硬い。めちゃくちゃ硬いんだけど、でも、おいしい。噛みごたえが楽しくなる。
硬くてゴムみたいとか、味がないとか、そういうお肉もあると思うのだけど、硬いけどおいしい。これが猪か!と、感慨深いものがあった。
旨味の奥に、生きてた猪の香りとか、山とか森とか、ドングリとか栗を感じる。獣と森と植物性のこっくりしたもの。そんなん、いた場所知ってるからでしょ、なんだけど、おいしさって統合感覚で、脳が生み出すイリュージョナルなものだから、背景を知ってる方がおいしい。
筋肉を食べている。動物の動物たる所以、「動」を適えていたもの。その味は確かに力強い。彼が走り回った野山とか、そこまで知らないけれども、想像して、背景にある大きいもの全体を食べてるんだと思う。それをいただけるのは嬉しいことである。ようこそ私へ。
肉を食べるってこういうことなんだ。深いところで腑に落ちた。
肉はご馳走である。
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