第7話|フランスだからしょうがない|パタンナー・会社員|内山夫妻
外国に住んでる人の話をききたい。思い浮かんだのは、フランス在住の友人夫婦。学生時代からつきあっていた2人は、奥さんのほうが服飾の仕事のために渡仏、約8年に及ぶ日仏間での遠距離恋愛から結婚して、今は2歳の子どもと3人でパリに暮らしている。
生活者目線のフランスの話は、意外に満ちていてとても新鮮。
比較文化とパリの子育て事情、悲喜こもごもの話。
2020.6.7 ⇄ Paris
距離感が遠のいて、ちょっと寂しい
−今どうですか?
たかこちゃん(以下た):3月中旬から保育園も、職場のアトリエも閉まって休みで。アトリエは5月なかばから再開したんだけど、子どもを保育園に通わせられなかったから、在宅でやってたよ。先週の水曜日から保育園が再開して、少しずつ日常が戻ってきてる。
内山くん(以下内):先週あたりから、街中の店も完全に元どおりじゃないけど動き始めて、レストランとかカフェはテラス席だけ開けてる。
外に出る時は毎回外出証明書をつくって持参しないといけなくて、ちょこちょこ検問があって、持ってないと罰金とられたんだよね。途中でwebで申請できることになって、少し楽になったけど。
−富山は全く外出できない感じはなかったんだけど、ロックダウン、きっと大変だったよね。
た:うん、でもね、お休みの間、子どもの日本語がすごい伸びたの。普段はフランス語の環境で過ごす時間のほうが長いから、そっちの方が喋れてたんだけど、日本語がたくさん身についた。トイレトレーニングもはじめられて、この子にとってはよかったと思って。こんなにずっと一緒にいられたのは産休後初めてだったよ。
内:家での方がよく食べるからか、背も伸びたよね。
−それは良かった!うちの子も、自分でできること増えたり、なんか成長したなって感じあったよ。街の雰囲気とか、大きく変わったことってある?
内:それまでマスクする習慣まったくなかったのが、みんなするようになったよね。あと入店制限があるから、あいてる店はどこも外にながーい行列ができてるのが不思議な感じがする。
た:スキンシップしなくなったのがさみしいかも。こっちの人って、チュッチュするし握手もハグもしてたし、距離感が親密だったのが、触られたくないみたいな感じになって。
街中が汚すぎるからもうちょっときれいにしよう、みたいにもなってる。日本て学校で掃除習うっていうか、掃除の時間があったじゃない?そういうのもないから。
−そうなんだ!わたしの通ってた小学校は掃除の時間になるとミスチルのインストがかかってたなあ…。日本がそうなのはすぐにカビたり腐ったりするからなのかな。
た:あー、湿気で。
内:うちの学校はビートルズのハローグッバイだったなあ…
ぼくらが旅に出る理由
−ふたりは大学時代から付き合ってたよね。それでついに結婚に至って。
内:出会って付き合い始めたのが2003年で、2009年にたかちゃんがフランスに行って、結婚が2017年。最初は結婚しても別居婚かなと思ってたけど…
た:子どもが欲しくて結婚して、さいわい授かって、一緒に住むってなったんだよね。子どもができなかったらずっと別居だったかも。
−うんうん、わたしも初めは別居婚してたから、ライフステージ的に子どもってのがなかったらずっと別居婚だったかもって思う。しかしあらためて聞くと、付き合ってた期間長いね!しかも国を超えての遠距離。
た:フランスの生活が大変だったから気にしてなかったけど、長かったんだね…忙しすぎて出会いを探してる暇もなかったよ。
内:ぼくは本当に彼女いるのって、妄想でしょって同僚とかによく言われてた。年に1〜2回しか会ってないそれはほんとうに彼女なのかって。
オザケンの「ぼくらが旅に出る理由」が脳内BGM生活だったなー。
−ああ、そうなんだねえ、やばい、涙出る…
た:でも、離れてた頃の方が良かったんじゃないか、みたいな。笑。お互いの嫌なところが見えない方が気楽だった。一緒に住むのと子どもがいる暮らしが同時に始まったから、すり合わせ期間がないまま子育て突入っていう、今はもうなんか、大変。
内:なんかずっと怒ってんだよね。
た:ほらそうやってすぐ人のせいにする…こんな感じ。笑。また仕事が始まったら違うと思うんだけど、ずっと家にいて顔突き合わせてると息が詰まるね。
二人の家の前にある運河。なんとなく清澄白河ぽいような?
−外に出られなかったらストレスたまるよね。 あと、わたしも遠距離大丈夫派なんだけど、そういう人は一緒にいるより自分の時間を優先したい傾向あるかも。でも内山くんもよくパリに行ったね!
内:面白そうだなって。ぜったい日本がいいってことでもなかったし。たかちゃんが頑張ってフランスでやってるから、譲った感じかなあ。
−内山くんは会計事務所で働いてるんだよね。
内:うん、今は日本人女性と結婚したフランス人オーナーがやってるとこで働いてる。15人くらいの事務所でスタッフの半分以上が日本人。お客さんも日本企業の人で、フランス進出時の会計業務を手伝うっていう。
日本にいるときに仕事で経理担当になって、経理ならフランスでも仕事できるかもって、それで働きながら資格取ったんだよね。
−早くからフランスを視野に入れてたんだね。たかちゃんはずっとフランスにいるって決めてたの?
た:ううん、ぜんぜん。通ってたパターン専門の服飾学校が9ヶ月コースだったから、はじめはそれで帰ろうって思ってたの。でも助けてくれる人が色々いて、インターン先を紹介してくれたり、その先の人もしばらくいていいよって言ってくれて、その間にVOGUEのブログを書かせてもらえるようになって、VOGUEの人もビザの更新を手伝ってくれて。
いろんな周りの人の推薦状があつまってビザが更新できて、それで仕事もみつかって、最初の仕事がみつかると次も早くて。
学校は職業訓練校みたいなところで、学生より大人の方が多かったんだけど、卒業して国に帰らないといけなかった人も多かったから、運が良かったんだと思う。
ただ、ビザをとるのが大変なだけで、ビザがとれると仕事はたくさんあるんだよ。
服飾の仕事をするなら、パリの方が仕事もチャンスもたくさんあると思う。
−二人の結婚式の時に職場の人たちからのビデオメッセージが映されたよね。アトリエで、いろんな人種の人たちがいきいき服の仕事をしてて、建物の雰囲気も素敵だったし、人が働いてる場所って感じで、すごくいいなって思った。それは東京よりもパリのほうが、うん、きっとそうなんだろうなあって思う。服飾なら何よりもパリ・コレクションだものね。
食、病院、授乳期間、ヌヌー
−パリの暮らしはどう?
内:こっちのほうが日本よりいいところを探すのがすごく難しい。
なにより、料理がまったく口に合わない。伝統料理を大事にする人はポトフみたいのつくるのかもしれないけど、ふつうに皆が食べてるのは草に油混ぜてサラダとか、チーズとハム挟んで食べるサンドイッチとか、すごく物足らなくて。
だから自分でつくろうと思って、最近料理のことしか考えてない。
−パスタを重曹で茹でてラーメンにしてるの面白かった!
内:ない食材も多いなかでなんとか、食べたいものをつくるっていう。あと、パリは内陸だからか魚食べる習慣があんまりないみたいで、魚好きだっていうと「日本人だねえ」みたいに言われる。
実家の親がウナギ釣りにはまってるとか聞くと、ウナギ食べたいなーって、ほんとうに羨ましい。
た:わたしは、気になるのは病院。夏に帰省したときに子どもが病気して小児科に行って、日本は安心だなって思ったよ。こっちは小児科っていっても事務所の一室で診察するような感じで、点滴とか、ほとんどの設備がないのね。必要な場合は別の大きい病院を紹介してもらうの。だからこっちで大きい病気したらってのは心配。
妊娠した時も、日本は検査もエコーもひとつの場所で全部できるけど、フランスはそうじゃなくて。血液検査専門の場所を予約して行って、結果持ってまた産婦人科の予約して行って、エコーも専門の場所に行って、また産婦人科行くみたいな、すーごい面倒臭くて。妊娠8ヶ月で日本に戻ったから、全然違う!!!ってびっくりした。
−たしかに、産むまでめちゃくちゃ整ってるよね。いろーんな検査が自動的にどんどんすすんで、ものすごく至れり尽くせり。
た:フランスだと、産後に産院で出される食事がクロワッサンとコーヒーとかで。第一子をフランスで、第二子を日本で産んだ人がちょうど同じ産院にいて、断然日本のがいいって言ってた。
色々、フランスだからしょうがないなってなること多い。笑
−日本にいるとフランスの方が先進的で制度も色々整ってるイメージだけど、、
た:ぜーんぜんそんなことない!
たとえば育休についてなんだけど、もらえるのって1ヶ月4万円くらいなのね。日本て育休中にそれまでのお給料の6〜7割もらえるの、すごく好待遇だと思う。フランスは期間も半年しかないし。
すぐ働くからだと思うけど、授乳期間も2〜3ヶ月で、そのあとミルクに切り替えるのが一般的なの。わたしは9ヶ月間授乳してたから、長い〜!って言われた。
−そうなんだ!こっちだと2歳でも飲む子もけっこういる。ぜんっぜん違うんだね。あと、育休の制度はあっても使えないとか、保育園に入れないから仕事を辞めないといけないとか、制度と実際が噛み合わないこともけっこうあるみたい。
ただ富山だと女の人が働く風土が昔からあって、地方だからってだけじゃなくて、人口比的に保育園が多い。そういう地域差もすごくあるなあって思う。おじいさんおばあさんが送迎してることも多いんだけど、パリでもやっぱり祖父母のサポートは大きいって前に言ってたよね。
た:うん。送迎が小学校に入っても必要だから、おじいちゃんおばあちゃんが手伝ってる。あとバカンスが長いから、その間子どもを預ける人も多いよ。1週間ずつ両方の親に、とか。
あと、保育園の他にもうひとつ主流なのが「ヌヌー」っていう、昔でいうところの乳母さん?みたいな人。公的ベビーシッターってことなのかな、資格を持ってる人が子どもを3〜4人、家で見てくれるんだ。うちも初めは保育園に入れなかったから、そこでお願いしてたよ。
−そういうのも、いいよね。日本でも保育ママって、近い保育の形があるみたいなんだけど、あんまり一般化してない気がする。これからなのかなー。
た:やる人も自分の子どもを育てながらできて、いいんだよね。子どもについての情報共有や相談も親密にできるから、きめ細やかなケアを重視する場合、そっちを選ぶ人もいて。
ヌヌーはアフリカとか中東の人の方が多いんだけど、その人たちがちっちゃい白人の子たちをつれて歩いてるのをよく見かけるよ。
応える文化とつきはなす文化
た:あと、保育園の準備も楽で良かった。持ってくるように言われたのは、ぬいぐるみとおしゃぶり、着替えくらい。布団、シーツ、オムツに名前とか、コップとかなくて。適当で楽っていうのはある。
二人の子どもが通っている保育園。たかこちゃんいわく、「鉄格子がはまってて監獄みたい」。1・2階が保育園、3階が公営住宅になっている。
−オムツに名前あるね。まだ経験してないけど、日本だと小学校になったら細かい教材全部に名前書かないといけないみたいだよね。なんでそういうことになるんだろう。
た:なくなることに対して文句言う人がいるんだろうねえ。実際こっちだとガンガンなくなる。保育園でなくなった服たくさんあるし、靴もとられたことあるし、適当なんだよね。まあフランスだし、しょうがないねってなる。
内:こっちもクレーマーみたいなおばさんはいて、言う人は言うと思うけど、相手にしないんだろうなあ。
あと、今住んでるところは日本人がほとんどいなくて、場所は気に入ってるんだけど、日本代表ってみられるプレッシャーがある。フランスは子どもを子ども扱いしないっていうか、1歳くらいから別部屋で寝るとか、すごく突き放すから、それに比べると躾がなってないとか、甘やかしてるとかみられてそう。
保育園の持ち物のぬいぐるみとおしゃぶりは、子どもを一人で寝かすための、ねんねグッズなんだよね。
−なるほど!こう、日本的なものって、働く主体が相手に応える感じがあるのかも。対子ども、対保護者、対顧客、どこでも。色々きめ細やかで、すごくありがたいって思うけど、求めることが多すぎて辛くなってるところもあるから、日常はもうちょっと雑でもいいって思う。店と客もほんとうは対等なのに、サービス受ける側が上って勘違いがあったり。
内:店と客が対等なのはフランスのいいところだね。「こどもチャレンジ」やってるんだけど、お店屋さんごっこの教材で、いらっしゃいませ、ご注文は、お届けします、ありがとうございましたとかって言わせてるのは、なんか気持ち悪い気がする。
あと、フランスは家事育児パパも積極的だと思う。保育園の送迎で会う親はパパのほうがちょい多いくらい。
他方で、日本人のおばさま方で構成されてる自分の職場では、男性は大黒柱、女性は家守るものって意識も強くて、フランスにいながらギャップで大変。自分が保育園やら子供の病気やらで休み遅刻早退を申請すると、内山の奥様は何もなさらないのですか的に非難されることがあって。
そんなとき感覚的には、おれが奥様だ!って反論したくなる。フランス生活において、妻が手前で、自分は奥様だとか。
−その切り返し、いいと思う。共感だってできそうなトピックなのに、ジェネレーションギャップで足引っ張っちゃうこともあるんだね。
内山家はもうずっとパリにいるの?
た:子どもが小学校に入る前までかなって思ってるよ。パリでは公立の小学校に期待ができなくて。日本の一般的レベルと同程度の教育を望むなら、小中高と私立にいかせないといけない感じなんだよね。だったら日本のほうがいいなと思って。
そこについてのイメージがガラっと変わらない限りは、日本に戻ると思う。
パパも日本に帰りたがってるし。笑
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もぐら:http://mooregoodlife.com/
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