10|値段のつかない場所から
公民館主催のワカメの摘み取り体験にいった。朝の漁港に、水揚げされた養殖ワカメがずらりと並んでいた。
ビニールみたいにしっかりしてそうな茎の根元にはびろびろのメカブがついていて、その先に茶色い葉っぱ=ワカメがべろんとまとまっている。地上の重力で力なくべろんとしているけれど、海の中ではゆらゆら大きく葉を伸ばしていたんだろう。
ワカメの全体像について、考えたこともなかったことに気づいた。茎ワカメもメカブもワカメも繋がって「わかめ」だった。知らなかったパーツがまたひとつ埋まった。
帰りに直売所に寄ったら、大きな原木椎茸が5個で280円で売っていた。生の原木椎茸があるのが嬉しくなってすぐに買った。
ワカメはしゃぶしゃぶ、椎茸は肉詰め焼きにして食べた。ワカメは歯ごたえがしっかり、椎茸は肉厚でボリュームがあって、とてもおいしかった。
豊かだなあ、と思った。
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私たちはとても微々たる金額で、ワカメや原木椎茸が近くで手に入る土地を取得した。東京から離れていて、近くに線路もない不便な場所だから、地価がとても低いのだった。
一方で、2020年度公示地価日本一は銀座4丁目山野楽器銀座本店の5770万円/㎡。
値段のつかない土地と、5770万円/㎡の土地。
ラカンに「欲望は人の欲望」という言葉がある。土地の値段はまさにその通りのものだと思う。
欲しい人がたくさんいる、憧れられる土地は高い。そうでない土地は、山や海がもたらす豊かな恵があっても、値段がつかない。
これが資本主義だ、と見せつけられる気がする。
でも銀座に身一つで放り出されても、お金がなければほとんど何もできない。一方で我が家の周辺では、住む場所も食べ物をつくる畑も人と関われば手に入る。農業も漁業も林業もあるから、やり方もいろいろ学べる。
これは、たぶん偶然じゃない。この島のなかでは資本主義で価値のある場所と、自給的暮らしがしやすい場所は、けっこう真逆なのだ。
日本の都市は平地にある。というか、地図を見ると、平地の少ない日本において、都市とはほとんど平地とイコールだ。商業地の他にも、工場を建てるには沿岸部が良いし、大規模集約農業にも平地の方が良いから、お金になりやすい土地というと、平地ということになる。
でも自給的暮らしをするには、山の方が有利だ。山は薪のバイオマスエネルギーや湧き水など、生活のインフラが豊かで、野生動物や木の実といった食べ物もあるし、畑をする土も森の中の方が痩せにくい。落ち葉も手に入る。
どうしてそんな辺鄙な場所に住んでいるんだろう?という場所にも人が住んでいるのは、生産様式によって、有利な場所が違うからだ。
ある様式で不利な場所が、違う様式においては有利になる。
この逆転現象に可能性を感じる。
かろやかに、おもしろいことができそうな気がする。