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赤ちゃんのうんちはヨーグルトの匂い

子どものつむじは甘い匂い − 太平洋側育ちの日本海側子育て記 −
抱っこをしたり、着替えをさせたり、歯を磨いたり。小さい子どもの頭はよくわたしの鼻の下にあって、それが発する匂いは、なんとなく甘い。
富山で1歳女児を育児中の湘南出身ライターが綴る暮らしと子育ての話。

前回の記事:ゆびさきから苺、ときどきブリの匂い

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友人と、娘のうんちを嗅ぎあった日

生後約半年、乳だけを飲んでいた頃の娘のうんちの匂いは、ヨーグルトに似ていた。

匂いとしての強さはあったけれど、臭くはなかった。そして日本の自然風景のなかではほとんど見つけられないほどに強い、きれいな黄色をしていた。

今となってはとても良い思い出だが、同じくらいの月齢の子どもをもつ友人夫婦と、うんちの匂いをかぎあったことがある。まだ離乳食が始まる前、子どものうんちってヨーグルトみたいな匂いだよねと話したら、うちは違うかもと返ってきて、ちょうどオムツにうんちがとれたので、ちょっとそのヨーグルトってやつを嗅がせてほしい、ということになり、ほかほかの真っ黄色のそれを嗅いでもらって、あら本当にヨーグルトみたいだねと、何の躊躇もなく自然に話した。夫婦のうち夫のほうが友達で、奥さんとは会うのがまだ2回目だったけれど、すっかり仲良くなれた気がした。

いい大人がなにをうんちうんちって・・・と、ここまで読んだ多くの人が眉をしかめているかもしれない。私も出産前はそうだったと思う。今も若干、どうかと思っている。

ただ出産を経て、自分をとりまく文脈が女から母のそれに変わったことで、身体の器官およびそこから出てくるものなどの意味合いがすっかり変わってしまった。

母になることというのは、清潔で整えられた現代の社会では隠されているものが、ペラリと皮を剥がされるような、一枚剥いだらみんな動物、という世界を生きることだった。

妊娠出産育児(とくに初期)界には、一般社会で「下ネタ」として周辺的なものとされている事柄が、ど真ん中にくる、パラレルワールドのような性質があるのだ。

たとえば「おっぱい」。

赤ちゃんのいる空間ではこの言葉が完全に「食べ物」の意味になり、恥ずかしがっている方がバカであるという感じで、まったくフラットに、カジュアルに、人々の口に上る。

わたしのその器官も他の哺乳類と同じく、出産とともに、生まれたばかりの、首のぐにゃぐにゃしたものすごく簡単に死んでしまいそうな子どもに、食べ物を分泌して与えるという最重要とも思われる役割を担うことになった。そしてそれは、意外なほど、ものすごく難しいことだった。

自然のことなのだから自然にできそうに思われるが、全然自然にできなくて、わたしは何人もの助産師さんの門を叩いて、母乳分泌の仕組みやWHOのガイドラインなど、書籍やwebサイトを今思い返すと驚くべき集中力で読み通し調べ倒し、プロラクチンとかオキシトシンとかめちゃくちゃ詳しくなった結果、なんとかものにした、という感じだった。

ずっと人間として生きてきたのに、急に哺乳類としてのふるまいを求められても、そう簡単にはいかないのだった。

信頼できるバロメーターとしてのうんち

産後のはじめの数ヶ月はただ授乳のために生きているといってもいいくらい、それが生活の全てだった。当時の娘は、飲む→寝落ち→置く→起きる→飲む、という一連の動作を、日中でも夜中でもいったんスイッチが入ると、エンドレスで4時間続けた。

日によってバラつきはあっても、だいたい4時間だった。とにかく飲まなければ泣きやまない、寝落ちしてもまたゾンビみたいにむくっと起き上がってひたすら飲みたがり、ひたすら飲んだ。抱っこだけでは全くだめで、とにかく飲まなければ鎮まらなかった。

こんなに飲んでおかしくならないのか、飲んでいるようにみえて飲めていないのか、分泌量が足りていないのか、成分に問題があるから満足しないのか。

ここまでぶっ続けで(寝落ちするとはいえほぼぶっ続けなのだ)飲むなんて何か欠陥があるのかもしれない。寝不足と、ほとんど同じ姿勢を長時間とり続けるストレスと、血液(母乳というのは乳腺を通過した血液なのだ)を吸われ続ける体力消耗のなかで、わたしは不安に駆られながら娘と相対していた。

そして「うんち」は、これでいいのか、大丈夫なのか、明日も生きていてくれるのか、面倒をみなければ確実に死んでしまう生命を維持させなければというプレッシャーのなかで、その小さい身体がきちんと機能しているか、悪いところはないかを測る、健康のバロメーターになった。

わたしは夫や両親など他の人がオムツ替えをしたときでも、必ずオムツの内容をチェックした。席を外している間に捨てられたときはゴミ箱から拾い上げてオムツを開けた。気になったときは写真を撮った。

問題ないのか、飲みすぎか、はたまた足りていないか。様子に変わったところがなければ、おしっこの回数やうんちの状態と体重増加以外に判断材料はない。いや、細かく言うと、お腹が張ってるか、おならはどうか、吐き戻しは、疝痛は、とかいろいろ、いろいろいろいろあるのだけど、排泄物は他の病気のサイン等も含めてとても重要な信頼のおけるバロメーターであり、気になるうんちはオムツごと持って小児科へ行く、というような資料にもなるのだった(※これ、小児科的にはやめてほしいとのこと。菌を持ってこないでくれと。それはそうだよね。写真でおねがいします、とのことです)。

うちなる野生を知る

ところでうんちの匂いには、腸内にいる菌が関係している。端的にいえば、腸内細菌がお腹のなかで食べ物を分解するときに臭いの元が生まれる。乳児の腸内には悪い菌から子どもを守る働きをしてくれる乳酸菌が多いので、乳しか摂取しない乳児のうんちの匂いがヨーグルトに似ているというのは、乳に乳酸菌が関わって生まれている匂いという点で、然るべきことであるらしい。

この乳酸菌、驚くべきことに、妊娠するしないに関わらず女性の膣内にいて、いつかそこを通る子どもに授けられるためにと、待機しているらしい。妊娠するとさらに腸内からも細菌がやってくる。細菌は母乳にも含まれていて、子どもの良い腸内環境をつくっていく助けとなるものが、生まれてすぐ、乳だけを飲む時期、それ以外の食べ物を食べるようになる時期と、それぞれの時期にベストな内容に変わって届けられるという。

母乳にも菌が含まれているとは!

菌と動物(人も含む)の共生関係には凄いものがあって、体内にいる細菌がどれだけ重要な役割を果たしているか、いろいろなことが明らかになってきているけれど、身体についていえば、うんちは、目に見えない菌の存在をもっとも感じられる接点だ。

子どもに限らず大人も、うんちの形状や匂いから、ざっくりと腸内環境を測ることはできる。だから、ただただ汚い、早く消えてくれ、と確認もしないで水に流してしまうのはもったいないのだと思う。(さらにいえば水に流すことじたいもったいない、土に還して循環させられたらと夢見るけれどそれはまた別の機会に)

さて、その後離乳食を食べはじめると、娘のうんちはヨーグルトの匂いではなく、何に例えるでもないうんちの匂いになっていった。とくに、おかゆやすり潰した野菜に加えて、白味魚やささみなどのタンパク質を食べるようになった頃から、明らかに臭くなった。おそらくお腹の細菌叢の構成が変わったのだ。

今1歳半になる子どもはおっぱいを飲まなくなり、全ての栄養を食べ物から得ている。身長体重ともに人並み、成長曲線の真ん中より少し下あたりだが、そんなに食べて大丈夫なのかとやっぱり少し心配になる程食べるので、悩まされたエンドレス授乳も、ただ食いしん坊なだけだったのかもしれない。

うんちは普通に臭うけれど、そこまで嫌なかんじではなく、基本的には臭みの中に甘みのようなもの、決定的な悪臭とされるのは逃れていそうな爽やかさがあって、色も黄色っぽくて愛嬌がある。良い菌がいて、良い働きをしてくれているのだろうと感じられる。

ヨーグルトを食べると、ヨーグルトのような匂いにもなる。人参をたくさん食べれば人参色、ピーマンを食べればピーマン色、お芋を食べればお芋色。野菜が不足するとコロコロと硬くなったりする。

うんちがバロメーターであるのは今も変わらない。やっぱり野菜(とか、食物繊維)は大事だな、など教えてくれるし、食べたものが如実に反映するのは見ていてかなり面白い。紫芋をたくさん食べた次の日は、どんなのが出てくるんだろうとワクワクするなど、うんち観察には新たな楽しみも生まれつつある。うんちうんちと言いながら内容物を確認する日々は、これからもまだまだ続くだろう。

※ この記事の公開を待つ間に、新生児の腸内には膣由来の細菌はほとんど存在しないことが明らかになったとする論文がニュースになった。

新生児の腸内生態系、帝王切開で変化か 英研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

膣内で乳酸菌が赤ちゃんを待っているという話をとても好ましく思っていたので、少し残念だけれど、全く関係しないこともないのではないか。助産師さんなどの話を思い出すに、産道を通ってくるときに母親の持つ菌のシャワーを浴びるのは良いこと、と定説になっている感じだったから、なにかしらの大切な働きはしているのではないかと、まったく感覚的にではあるけれど、思う。

参考

アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌』
どうしてうんちはくさいの|科学なぜなぜ100当番
うんこのにおい|日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ
なぜ「お父さんのあとは臭い」のか、便臭が教える健康状態

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