見出し画像

【旅】鎌倉さんぽ

 わたしは鎌倉が大好きで、人生で何回行ってきたかもうわかりません。そして行く度に訪れたい場所やその順序が変わるので、一度として同じルートは辿っていないように思います。それでも、季節を問わず、いつ訪れても楽しませてくれる町が、鎌倉です。少し道を逸れればそこは自分だけの散歩道。今回は、先日の散歩について、思い返してみようと思います。

  今回はJR鎌倉駅を降りて、小町通りとは反対側の西口改札へ。目の前の通りをいき、交差点を越えていくと、坂道になります。上っていくとやがて短いトンネルが。抜けて、右手に大きなマンションを眺めながらさらにまっすぐ歩いていくと、右手にあるのがわたしの愛してやまない紅茶の喫茶店、"ブンブン紅茶店"です。この日はシンプルなチャイを一ついただきました。立ち上る湯気が、真冬の空気で冷え切ったカラダに沁みます。
 店内にはブンブンさんこだわりの紅茶の茶葉がたくさん並んでおり、選ぶのも楽しいです。また、古本や昔の紅茶缶が並ぶ壁、骨董品の茶器の存在感、あたたかな木の造りの店内やテーブルと椅子、その奥で紅茶を淹れてくれている店長さんの姿など、味わい深く温もりあふれるお店です。鎌倉に行ったらほとんど必ず立ち寄っています。

 さて、特に行き先を決めずに寄ったブンブンさん。お店を出て、少し考えながらぶらぶらと銭洗弁天の方へ歩いて行き、ふと思い立って、この日は佐助稲荷へお参りをすることにしました。天気は曇っていて、佐助の町内を歩いていたら、ふと霰が降ってきました。なぜだか、晴れているときよりも、このような雲行きの時に立ち寄りたくなることが多い、佐助稲荷です。実際、ここは住宅地の中から伸びる、ひっそりとした坂の上にあり、どこか喧騒から隔たっている場所。無数に連なる鳥居のあちこちに、お稲荷さんである狐さんたちが並ぶ空間は、少し人の世を離れた感じがします。
 本堂のそばの社務所では、一対の狐さんをいただき、裏に祈願内容や名前を書いて、神社全体の好きなところに奉納することができます。わたしは以前、本堂の裏の石段を登り、頂上に近いところにすでに奉納していたので、今回は狐さんを家に持ち帰って、記念に置いておくことにしました。

 さて、佐助稲荷を後にして道に戻った頃。かなり長い間、寒い中稲荷神社でぐるぐると観て回っていたせいか、ふとトイレに行きたくなります。でも神社内にはトイレはありません。ブンブンに戻るにもすでに遠く、しかもここらは静かな住宅街。古民家や落ち着いた佇まいの一軒家が軒を連ねる中、人通りもあまりありません。少し考えを巡らし、銭洗弁天まで歩いて、そこのトイレに駆け込むことにしました!
 佐助稲荷から銭洗弁天までは歩いて十数分。過酷な坂道が最後待ってますが、トイレのために頑張ります。すれ違う観光客の方々。「わたしも観光です」的な涼しい顔を装い、しかし実はかなりトイレ行きたくて辛い。
 やっと辿り着いた、洞窟の入り口のようになっている、銭洗弁天の巌窟の穴。やっと楽になれる!と、思って、やや早足に入ろうとした時。そこには、無情な一文が貼ってあったのです。

 「現在故障のためトイレはご使用になれません」

 ああ……。やはり、いいことの後にはちゃんと苦難が待っているのですね。わたしはしばし呆然とし、巌窟の周りで写真を撮っていた海外旅行者の方が、なかなか中に入っていかないわたしをいぶかしむのを感じながらうろうろ。そして決断。貼り紙には続きがあり、トイレを使用するなら源氏山公園へと書いてあります。公園への入り口は、過酷な坂をさらに登った先。絶望感に苛まれながら、登ってゆきます。
 
 源氏山公園は鎌倉のいろいろな名所に繋がっている、広大な公園、というより山道です。この日は平日だったため、人気はほとんど無く、鳥の声と木々のざわめく音だけ。そんな中を、芝生を横切り、階段を上り下りし、トイレの看板を頼りにひたすら歩いてゆきます。もう頭の中はトイレトイレトイレ。しかし焦りのせいでしょう、どこかで看板を見損ねてしまったのか、明らかにトイレなんて無さそうな道に入っています。とりあえずそのまま進み、しばらくゆくと、やがて見えてきた源頼朝像。その下でピクニックする園児たちと保育士さん。そしてその向こうにトイレ!!
鎌倉殿に見守られながら、無事に事なきを得たのでした。

 さて、こんな山の上まで来るつもりはなかったんだけどなあと思いながら、せっかくなのでそのままどこかへ足を伸ばすことに。見ると、方向を示す看板に"寿福寺"の三文字が!なんとそんなところまで来ていたのかと思い、向かうことにします。寿福寺は石畳の参道が美しい、北条政子のお墓があるお寺です。

 もはや誰もいない山道を再び下り、くねくねと歩いて行きます。熊さんよ、お願いだから出てこないでと祈りつつ。なんなら蛇にもでっかい虫にも会いたくはありません。そして、なんとなくすぐ着くと思っていたら、なかなか着かない山道。ほとんど人とすれ違わず、時には人一人がやっと通れるくらいの狭い道を、石や木の根をつかみながら降りていきます。こんなはずじゃなかった…。あの時トイレに行きたくなったばっかりに…。

 そして、ようやく辿り着いた寿福寺。山道はお寺の裏の墓地に続いていました。初めて通る小道を回って、見慣れた本堂へ。
 頑張って辿り着いた甲斐あって、午後の緩やかな日差しがほんのり差す、無人の参道を味わうことができました。お疲れ様自分…。

 この日はこの後、鳩サブレの本店でお土産を買い、帰路へ。予定外の登山と下山はありましたが、とても充実した鎌倉日でした。

 ドラマ「スロウトレイン」、素晴らしかったですね。あたたかくなったら、次は七里ヶ浜あたりの海辺をぶらぶらしたいです。

 


いいなと思ったら応援しよう!