FM言ノ葉「第10回きっとあなたの1400字」投稿作品への感想
本記事は、VRChat内のラジオ「FM言ノ葉」において2024年10月に開催された企画「第10回きっとあなたの1400字」に投稿された全小説作品への、私の一言感想です。作者名は敬称略でご容赦ください。
お題は「ピエロ」「祭り」「旅」「まぼろし」「朝」から一つ選ぶ形式でした。全ての作品は、2024年10月30日現在、VRChatのワールド「言ノ葉堂2号店」にて読むことができます。
作品がwebで公開されている場合には、各作品への感想の後にそのリンクを載せます。私の知る限りで載せていますので、公開しているのに載っていなかったり、リンクが誤っていたりする場合には何らかの方法で私までお伝えください。確認の上修正します。
K(Unknown)『秋の旅 情景とVRの世界』、筋書きはPROJECT: SUMMER FLAREの秋バージョンと解釈することができるでしょうが、最後に主人公が死ぬ展開は夏より秋の方が収まりがいいと思います。秋は満足の季節なので。
未無月唯『終わりの朝』、冒頭の朝と夜を重ねる表現がいいですね。ログアウトの名残惜しさを素直に深堀りして描いた作品だと思います。
ソーサツ・チエカ『心から』、いつものやつですが、私はこれの内容面にコメントできる立場にありません。それはつまり、このお話は3Dモデルについて述べているのではないということです。中核となる文は「私は、私の元来たところに帰ります」です。写真はAvatar Museum 9で撮りました。
くれはるり「無題」、改行がないことが語り手の感じている日々の張り合いのなさをうまく表現していて、その中でさらに、それぞれの文の長短が苦しさ(長い文)や諦め(短い文)に対応して心情の解像度を上げていると思います。
renfree『間違った自分からの、逃走(失敗)』、前半で自然を満喫する贅沢を語ってみたり、後半で写真を上げたりする描写で、主人公の呑気さが一貫して演出されているのがいいと思います。彼女たちが揃って押し掛けてきたことも、深刻さを感じさせない点ではその呑気さを強調しているでしょう。
安食ねる『雪だるまは朝日を見ない』、展開と描写の均整が取れていると思います。情報の出し方も、必要な箇所で必要な分だけ、必要な順番で(時系列にこだわらず)出す技巧があります。眠ったような祖父の顔立ちと最後の「気高き魂」との対比もいいですね。
葵シュセツ『それでも今日が始まる』、「現状維持がベストだ」「今日がまた始まる」の箇所から、一言も書かれていない主人公の本音が想像できるのは、それまでの記述の積み重ねによるものでしょうね。
津楽『野宿火』、物語が終わった後にも主人公がその場でしばらく佇んでいるような余韻があります。怪異の話でありながら人間関係へのちょっとした気づきで終わるのは、それ自体が民俗の魅力を支える「苦しみの日常」の描写になっている気が私にはするのですね。
小鶴こづる『久しぶり。』、短い文や体言止めは、主人公が一貫した意味に乏しい寸断された世界を生きていることを恐らく表していて、そこに意味が生まれようとするところでこのお話は終わっているのだと思います。そのため、彼女が実際に生きているかどうかは私の関心事ではありません。
ライムリリー『私にとって言葉をめぐる現在』、1400字は小説よりエッセイに向くと私は以前から思っていますが、その好例だと思います。単純に原爆資料館で問題を解決させないのがいいですね。私も言葉の限界とそれを越えるものについては同じ意見を持っています。
yamamiya『0557』、確かに比喩の多さはやや過剰ですが、全て一貫して海にまつわる表現で、また展開ではなく一瞬の時間帯の雰囲気を表すことに注力した作品なので、これでいいのだと思います。それを納得させるのに冒頭の一文は十分です。
ほんにゃあ『ふたりの朝』、互いの弱いところが一日ずつ描写されていることで、二人の関係、というより人間としてのそれぞれの背景についての想像が促されます。感情を交えず、ほとんど事実だけを淡々と描いていることによっても、読者の想像に任せる比重がうまくコントロールされていると思います。
〈以上〉