40歳からのギターソロ

この記事のしばらく前になりますが、2021年4月に私のYouTubeチャンネルの『フリーゲージトレイン』2号(第2回)でギターソロの企画を放送しました。タイトルは「ソロ40」。バンド編成で演奏したことのある曲をソロアレンジしてみたり、過去のライブ配信の模様をお送りしました。

30代の終わりに自分の演奏だけで制作したCD『トレス・オリヘネス~3つの始点』も含めて、奇しくも2020年の前の年から、この記事の表題のようにアラフォーにしてあらためてギター1本と向き合う日々を過ごしてきました。

さて、「ギターソロ」という表現自体は特別なものではありませんが、いろいろ連想させる響きがあります。例えば多くのクラシックギタリストはギター1本だけでさまざまな音楽の世界を完結させますし、エレキギターに置き換えてみるとロックバンドでギタリストが魅せる華やかなパフォーマンスをイメージできます。アコースティックギターならボディをリズミカルに叩きながらのピッキング、私も「かっこいいなあ」と思いながら観たり聴いたりしています。自分では普段弾かない奏法ばかりなのですごく勉強になります。

一方、私がいつも演奏している3つのフィールド「フラメンコ」「タンゴ」「フォルクローレ」でも、それぞれとても奥深いギターソロの世界があります。ただ、私自身はつい最近まで「ギターソロ」とは遠いところに身を置いてきた気がします。

私はギタリストとしてはどちらかというと、グループ(ユニット)の中では「ベース的なパート」または「リズム楽器」としての役目を果たしてきました。自分がソリストとしてフロントに立つよりも、ご一緒するアーティスト(ソリスト)を支えることに喜びを感じて、特にこの10年はそのおかげでいろいろな意味で「生きる」ことができました。※1

このことは裏を返すと「自分はソリスト、センターに立つギタリストではない」と一旦「見切り」をつけた、という意味になります。30歳になったころでした。

「30にして立つ」をやめることで結局立てたかも

20代のころはありがたいことに2回ほどソロ活動をするチャンスがありました。1つ目はスペインやアルゼンチンから帰国したばかりのころ、その次はファーストアルバム『不思議な風』をリリースしたころです。

このころは「もっとソロライブをやらなきゃ」と気ばかり焦っていたかもしれません。すでにいろいろな演奏家(ソリスト)のサポートを務めていましたが、自分は果たしていつまでもサポートの立場でいいのか、早く自分でもできるようにならなければいけないんじゃないか、という悩みもありました。

ただ、いざ自分でライブを組むとなると、スケジュール、宣伝(集客)、演奏の構成と準備、会場とのやり取り…多くのタスクを同時に進めなければなりません。ライブをブッキングしたその瞬間は嬉しくても、その翌日からライブ当日まではずっと胃がキリキリしていました。

もちろんライブがうまくいったときの達成感は大きいです。でも実際に自分の中に残る余韻はなんともいえない違和感でした。演奏のスキル不足なのか、メンタルの弱さなのか、容姿を含めたパフォーマンスへの自信のなさなのか、その全部なのか…特に誰かに言われたわけでもないのに、ずっと自問自答の日々。これまで多くのソリストの演奏に触れてきて、あこがれたけれど、そこに遠く及ばないどころか、本当に自分でその位置に立ちたいのかも分からなくなっていました。

そこから解放されたのが、前述の「見切り」をつけた30歳のころ。当初は自分のライブとしてブッキング予定だった日程を、共演する友人をメインにしたライブに切り替えて自分は「セッティング側」にまわった瞬間でした。その日のライブはびっくりするくらいにいろいろな歯車がうまくかみあって、それは素晴らしい時間になりました。この日のことを書いた自分のブログでは、「今後の活動に向けての重要なヒントをくれたような、ちょっとした確信があるのです」といっぱしに予言までしていました。 ※2

のちに雑誌のインタビューを受けた時にも話した内容で「どうしたらこの苦しい状況から離れて好きな音楽の中で心地よくいられるかを検証した結果、自分はソリストではなくチームの一員でそのライブを良くできたとき、みんなが良いパフォーマンスができたときに嬉しい、これが自分の『たち』なんだということに気づきました」(というようなことを言ったはずです) ※3

そこからの日々は本当に充実したものでした。その直後にサポートメンバーとしてある現場で3日間連続の公演を終えた時、制作スタッフの方から「智詠くんステージが1段上がったね」と言っていただいたのがすごく励みになりました。

30代の終わりにあえてソロアルバムを出してみた

ファーストアルバム『不思議な風』以降、ユニットでのCD、ゲスト参加のCDを数多く録音する機会に恵まれました。そして2019年、11年ぶりに自分の名前のソロアルバムを発表しました。タイトルは先ほども紹介した『トレス・オリヘネス~3つの始点』。 私がこれまで演奏してきた3つのフィールド…フォルクローレ、タンゴ、フラメンコへの思いを自分の演奏だけで表現することを試みました。

いろいろなバンドで活動するギタリストが突然ギターソロのアルバムを出す、というのはわりと「あるある」なのですが、その気持ちは今すごく分かる気がします。いま自分はどのあたりにいるのか、というマインドを含めた「所在確認」というのが一番の動機かもしれません。

「私、実はソロもできます」とか、「これをきっかけにソリストになります」ということではなく、実際に長年いろいろなソリストとご一緒してきて、今後も共演を続けていくためには自分自身のギタリストとしてのアップデートがすごく大事だと思ったのと、ラジオで好きな音楽を紹介する機会をいただいてリスナーとして音楽をたくさん聴くことを通して、一度原点に立ち返ってみたいと思ったからでした。

何より大きいのが(というか今さらですが)、ギターソロに取り組むと単純にギターが上達するので、いろいろ「役に立つ」ということ。先日も友人でありオンラインレッスンの生徒さんでもあるユニットの企画(CD制作の準備公演)に呼んでいただきましたが、自分でソロをやってみたことで、いざサポート役を任されたときに、よりアシストがしやすくなった気がします。※4

そしてまもなくまた別のユニットのCDも発表になるので後日リンクを追記したいと思います。ちなみに自分のソロアルバムの録音が終わった次の日にレコーディングしたCDです。※5

またいろいろな方と日常的に共演できるようになるまで、もうしばらくギターと向き合ってみたいと思います。40歳からのギターソロも、どこかで直接お届けできる機会があればうれしいです。


※1 以前のnote記事「やっぱりリズムって大事」でも書いています
※2 智詠ブログ “spac”  2010年3月25日 記事
※3 『パセオ・フラメンコ』 2014年11月号「男の肖像」より
※4 智詠ブログ “spac”  2021年7月22日 記事
※5 智詠ブログ “spac”  2021年10月27日 記事(追記)



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