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テンプル・コンサート「クロイツェル・ソナタ」へ行ってきました♪

ついに、子どもが生まれて以来ほぼ10年ぶりのコンサートへ!!「当たり前」と思われるかもしれませんが、やっぱり動画で聴くのと生の演奏を聴くのとでは、受け取る情報量が全然違いますね。そんなことも忘れるぐらいコンサートから足が遠のいていたわけですが、当日は会場での一体感や空間に音が満たされる感覚を久々に味わうことができて、「生ってこういうことだったな」と胸がいっぱいになりました(涙)

今回はそんな久々の音楽鑑賞について記念に書き留めるとともに、素晴らしかったコンサートの内容をお伝えしたいと思います。

会場の遊亀山浄泉寺へなんとか到着

今回私が訪れたのは「しまなみ海道・秋の音楽休暇村2023」のなかで開催されるテンプル・コンサート「クロイツェル・ソナタ」。10月29日(日)16時からで、会場は尾道の「遊亀山浄泉寺」でした。自分なりに予習もして、なんとか会場へ到着。はっきり言ってかなりの珍道中でしたが……、とにかく無事に着けてよかったです(汗)。

厳かな面持ちでおこなわれるパントマイム。舞台は汽車の中。

たくさんの人が集まっているにもかかわらず、静けさに包まれた会場。ときおり聴こえてくるピアノの音は、パントマイムの効果音です。尾道在住のパントマイミストの方が、トルストイが書いた「クロイツェル・ソナタ」にまつわるパントマイムを受付前で演じていらっしゃいました。すっかり圧倒され棒立ちで見入ってしまう私……、珍道中で疲れていたことも忘れて心はすっかりアートの世界へ。

書道家・高田桂帆さんが1曲目演奏の直前に書いた文字

演奏の直前には高田桂帆さんの書道パフォーマンス。右上に「愛」と書いてあるのが読めるかと思います。さて、左下には……?私はこの時点ではまだ何の文字かわかりませんでした。のちに高田桂帆さんの解説を聴いて「なるほど」と唸ることになります。(解説についてはのちほど紹介。)

ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第9番「クロイツェル」(弦楽五重奏版)

第1ヴァイオリン:北田千尋
第2ヴァイオリン:小島燎
ヴィオラ:イェルン・サイス
チェロ:上村文乃
コントラバス:アレクサンドル・バイル

書道パフォーマンス後、流れるように始まった1曲目のベートーヴェンのピアノとヴァイオリンのためのソナタ第9番「クロイツェル」(弦楽五重奏版)。会場に響き渡る華やかなヴァイオリンの音に初っ端からグッと引き込まれます。(久々に生のヴァイオリンの音を聴いた私はこの時点で涙目)

追いかけっこを重ね、ユニゾンで情熱的に盛り上がる第1楽章、第1ヴァイオリンの早いパッセージが愛らしい笑い声のように響く第2楽章、喜びに満ちた軽快なメロディと幸せをかみしめるようなおだやかなメロディが交互に出てくる第3楽章。

第1ヴァイオリンの北田千尋さんは、先日広島交響楽団のコンサートマスターへ就任されたばかりなのだそう。とろけるような優しい音色にすっかり魅了されてしまいました。また、私は舞台に向かって左手に座っていたためチェロの上村文乃さんがよく見えたのですが、音楽にあわせて時折ひっそりと微笑まれていた様子や、上村さんが奏でる空気に溶けていくような美しいピチカートが印象に残りました。

ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」

第1ヴァイオリン:小島燎
第2ヴァイオリン:北田千尋
ヴィオラ:イェルン・サイス
チェロ:上村文乃

休憩後、2度目の書道パフォーマンスを経て、次はヤナーチェクの弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」。こちらは先ほどの1曲目から着想を得て作られたトルストイの「クロイツェル・ソナタ」という物語を、ヤナーチェクが音楽で表現したものです。当日いただいたプログラムにトルストイの書いた「クロイツェル・ソナタ」の簡単なあらすじがあったので、少し長くなりますが紹介します。

汽車の乗客の間で結婚の観念について議論が起こり、「愛情に基づいた結婚だけが真実だ」という意見に反論する形で口をはさんだのが、長年の軋轢と激しい嫉妬の末に妻を殺してしまったポズドヌイシェフでした。そのきっかっけとなったのが、夫婦の前に現れたトルハチェフスキーというセミプロのヴァイオリニスト。妻はピアノをたしなんでおり、すぐに彼と意気投合します。ポズドヌイシェフは嫉妬していないふりをしながら、妻と共演してくれるように愛想よくトルハチェフスキーに頼んだところ、二人が選んで演奏したのがベートーヴェンの「クロイツェル」だったのです。それは見事な演奏で、一度は「自分でも知らなかった、全く新しい情感が開けたよう」に感じるポズドヌイシェフですが、すぐに演奏を終えた時の二人の表情を思い出し、すべてが成就していたことを悟るのです。

しまなみ海道・秋の音楽休暇村2023 パンフレット

嫉妬していないふりをしながら二人の間を取り持つポズドヌイシェフと、刺激的な音楽体験を通してトルハチェフスキーに惹かれてしまうポズドヌイシェフの妻。最後には妻が殺されてしまう悲劇的な物語です。

2曲目はヴァイオリンのお二人が入れ替わり、「しまなみ海道・秋の音楽休暇村」の総合プロデューサーでもある小島燎さんが第1ヴァイオリン。愛と執着に翻弄され苦悩するポズドヌイシェフを表現してくださいました。

苦しみに満ちた第1楽章、あやしさがいや増し絶望に打ちのめされるような第2楽章、ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」からの引用で始まるドラマティックな第3楽章、悲しげな旋律から段々と緊迫感を増していき、呆然と立ち尽くすように幕切れとなる第4楽章。

ヤナーチェクの「クロイツェル・ソナタ」は、「愛とは何か?」という大きな疑問符を会場に残したまま嵐のように去っていきました。2曲目では第3楽章で小島さんが奏でたイナヅマのようにエネルギッシュなパッセージや、第4楽章冒頭でのなんともさみしそうなメロディが心に響き、ひとつの楽器でこんなにも幅広い音色が出せるということにも改めて驚かされました。

書道パフォーマンスで書かれた文字が明らかに!

上は1曲目の演奏直前に描かれたもの。下が2曲目の演奏直前に描かれ、完成した作品。

今回のコンサートで演奏されたのは、ベートーヴェンのピアノとヴァイオリンのためのソナタ第9番「クロイツェル」(弦楽五重奏版)と、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」の2曲。それぞれの演奏の前に高田桂帆さんによる書道パフォーマンスが行われました。

先ほども紹介しましたが、上が1曲目の直前に書かれたものです。左下に書かれている文字がわからなくて悶々としていた私……。絶対に確認して帰らなければと意気込んでいました。下は2曲目の直前に書かれて完成したものです。真ん中に新しく「心」という字が書かれていることがわかるでしょう。太い筆を片手に持ち、もう一方の手で毛の部分をギュッと押さえながら力を込めて書かれていました。

こちらの作品について2曲の演奏が終わってから高田桂帆さんが解説してくださいました。左下に書かれているのはなんと「反転した愛」なのだそうです!高田さんは「愛が生まれたときに苦しみも生まれた」という仏教のお話を交えながら、「純粋な愛も恨みや執着によって少しずつ歪んでゆくことがある」「だからこそ見返りを求めない慈悲の心が大切」ということをお話ししてくださいました。

とすると……、左下の文字は恨みや執着によって歪んで形を変えてしまった「愛」なのでしょうか。二つの愛を律するように書かれた力強く温かい「心」という文字から、「一番大切なものを忘れないで」という声が聞こえてくるようです。

最後に

アンコールの際、写真や動画をとってもよい時間を設けてくださいました。

今回、遊亀山浄泉寺という場所で二つの「クロイツェル・ソナタ」を聴けたのは、本当にありがたい特別な体験となりました。お寺って、たくさんの人がさまざまなことを祈りに来る場所。その祈りの中には「愛」まつわるものもたくさんあったのではないかと想像します。なかにはポズドヌイシェフのように愛に苦しめられ、助けを求めた人もいたかもしれません。

「愛とは何か?」その問いはあまりにも大き過ぎ、すぐには答えが出そうにもありません。しかし、まずは自分にできること、家族に感謝し一人一人にしっかり向き合っていこうと気持ちを新たにしました。

そして、久々に聴いた生の音楽の輝かしさ!心躍る時間を過ごさせていただき感謝いたします。空間いっぱいに音楽が満たされる幸福感や、ぐっと前のめりになってこぶしを握った瞬間が隣のお客さんとシンクロしたときの何とも言えない高揚感に、久々に胸がときめきました。こちらから少しだけ演奏が聴けるのでぜひ聴いてみてくださいね。

しまなみ海道・秋の音楽休暇村2023では、まだたくさんのコンサートが予定されています(全日程は下のリンクからどうぞ)。スケジュールに余裕があればもう一度見に行きたいものです。

11月4日、5日に生口島のベル・カントホールでおこなわれるコンサートは、高校生以下は無料で入れるのだそう!気になる方はぜひチェックしてみてください♪(11月3日に行われるプレミアム・コンサートはすでに完売しているそうです。)

★11月4日のコンサートにもお邪魔しました















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